韓国美術のレガシーの発展的展開
上述したように、韓国現代美術の伝統に目を向けつつも、それを発展的に昇華しようと試みる作家を紹介するギャラリーも多かった。


GALLERY YEHのチャン・スンテク(1959〜)は「ポスト単色画」といえる絵画を制作する画家で、アクリル絵具を幾度も重ねることでキャンバス上に立体的な色相をつくりだし、より現代的な印象を生み出す作品群を出展。また、ハッコジェ・ギャラリーは、色鉛筆を用いて円を反復させ、光が反射しているかのような立体感を平面上につくり出す中堅のアーティスト、チ・グヌク(1985〜)を紹介していた。いずれも、すでに美術史における評価が定まった単色画の先行作家を参照しながら、韓国美術の新たな文脈を創出する試みといえる。


韓国の伝統を下敷きにしているという観点では、会場の各ブースにおいて、朝鮮時代後期の官窯で焼かれた白磁の大壺「月壺」を平面に描いた作品が、過去にも増して多く見られた。gallery NoWが出展しているキム・ソン(1980〜)は、平面のキャンバス上に月壺を貫入まで含めて細密に描く画家だ。また、ドンウォン・ギャラリーのヤン・ソンフン(1967〜)も油彩の表現でやわらかな月壺を描いている。
キャラクターをモチーフとする作品の減少
本アートフェアをここ数年毎年取材してきて、明確な傾向として感じられるのがキャラクターを用いたアートが目に見えて減っていることだ。2020年前後にアートマーケットを賑わせたマンガやアニメのキャラクターをモチーフにした平面作品は、かつて韓国のギャラリーからも数多く出展されていたが、今年はその多くが日本のギャラリーからの出展だった。例えば今回、SH GALLERYは、アニメキャラクターの要素を取り入れた女性像を描いてきたBackside works.の新作を出展しているが、先に紹介した月壺をモチーフとする作品であるチェ・ヨンウク(1964〜)と並べて紹介されており、アートマーケットの潮流が交わる象徴的な空間となっていた。

キャラクターをモチーフとした作品の盛り上がりが一段落したと考えることもできるが、同時に今回のアートフェアではこれらの作品群が日本のギャラリーのひとつの特色のようにも感じられた。
kiafの会場では 「Kiaf HIGHLIGHTS」の表示があるギャラリーに注目するここともおすすめしたい。本企画は各ギャラリーが応募した新進アーティストを特集するもので、Kiaf委員会が作品を精査し、生態系や物質性、東洋哲学などを探求する10名のセミファイナリストの作品を各ギャラリーの専用スペースにて展示。多くのアーティストが紹介されるアートフェアのなかで、注目すべき作品を定めるためのひとつの指標となるだろう。


CHOI&CHOI Galleryからは、マシュー・ストーンが「Kiaf HIGHLIGHTS」に選出。手作業で描いた絵具のストロークを撮影し、コンピューター上でそれらを切り貼りし、再構成してイメージをつくり出している。日本からはKiafに初出展した水犀(みずさい)の鈴木由衣が唯一選出された。本フェアでは目にすることが少なかった陶製作品を中心に個展形式で出展し、その作風は前述した月壺との接続も感じさせた。
フリーズ・ソウルという国際的なアートフェアとの棲み分けをつねに模索してきたKiaf SEOULは、韓国の現代美術の歴史との接続を明確に打ち出すことで、差別化に成功したように見える。多様な価値が共存する時代において、韓国の風土に根ざしたアートフェアを国際的に開きながら展開するその手腕は、日本としても参照すべき点が多いといえるだろう。
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