人のかたちをした「世界」を描く。『美術手帖』2025年10月号は、「加藤泉」特集

『美術手帖』2025年10月号「加藤泉」特集が9月5日に発売される。本特集では、画家・加藤泉が作品に「人がた」のイメージを登場させる背景を探りながら、「作品制作の方法論」と「制作以外の側面」の両方から作家の人物像を深堀りしていく。また特別記事では、岐阜県現代陶芸美術館で開催中の伊藤慶二の大規模個展「祈・これから」展を、アーティスト・インタビューでは、クリスティーン・サン・キムを取り上げる。

 人のかたちをした「世界」を描く

  現代の日本を代表する画家のひとり、加藤泉。1990年代末より活動をはじめ、「人がた」をモチーフに、絵画、木彫、ソフトビニール、石、プラモデル、布などの多様なメディウムを用いて作品を制作し世界各地で発表するなど、その国際的な評価は高い。

 その加藤作品のほぼすべてに「人がた」のイメージが現れる。そして、その表現は素材との対話やマテリアルの検証などを通してつねに進化と展開を続けている。この自己模倣にとどまることのない加藤の思考をかたちづくるものとは何か。そして「人がた」を通して彼が描こうとしているものとは何か。

 2025年7月、故郷・島根県で開催された大規模個展「加藤泉 何者かへの道」は、高校時代の油彩から最新作まで200点以上を網羅し、40年にわたるその歩みを展観するものとなった。この後、国際芸術祭「あいち2025」(9月13日〜11月30日)、ペロタン・ソウルでの個展(8月26日〜10月25日)と次々に発表の機会が控えている。その多忙な制作の合間を縫って、連日スタジオで作家への取材が行われた。

 企画においては、加藤の「作品制作の方法論」と 「制作以外の側面」の両方を見せるという、 レコード盤のA面B面のような構成が企図されている。同世代のペインター・法貴信也との対談をはじめ、キュレーター、批評家、研究者によるインタビューや論考を通して加藤の絵画構築の理路や思想を多角的に浮かび上がらせていく構成だ。いっぽうで、思想や原体験を紐解いたキーワード記事やバンド活動を追った音楽論では、加藤の人間的な魅力にも迫る。本特集は、加藤泉が絵画を描くことで刻んでいく道行きの、これまでとこれからを辿る内容となっている。

 特別記事では、岐阜県現代陶芸美術館で開催中の伊藤慶二の大規模個展「祈・これから」展(6月28日〜9月28日)が取り上げられる。クラフト、陶の立体からタブロー、インスタレーションへ──その多岐にわたる作域に一貫するのは、土と空間を介して「人間の在り方」を問う眼差しである。主題を変奏しつつ、見えるものと見えないものを往還する伊藤慶二の表現の核心にあるものとはなにか、川北裕子が読み解く。

 またアーティスト・インタビューは、音の非聴覚的な側面や、そこに潜む政治的な意味を探求してきたクリスティーン・サン・キム。日本で初となる美術館での展示(森美術館、7月2日〜11月9日)を行う作家に、音やアメリカ手話(ASL)を空間的に可視化することの「重さ」について、本展キュレーターの德山拓一が話を聞いた。

編集部