ビデオ・アートの開拓者、ナム・ジュン・パイクが没後20年。ワタリウム美術館で「ナムジュン・パイク|じゅげむ展」が開催【2/2ページ】

美術館の各階でパイクの思想を表現

 展覧会名にある「じゅげむ(寿限無)」とは、子供の長寿を願って長い名前を連ねる落語の演目。ブラウン管から液晶、4K、LEDへと映像メディアが急速に進化を遂げる現代において、パイクが遺した作品が「寿限無のように長く、次世代へと生き続けてほしい」という美術館の願い、そしてつねに新たな視点を与え続けるパイク作品の超時空的な生命力が本展の核となる。

ナム・ジュン・パイク《ケージの森/森の啓示》(1993) 植物、モニター 20台、映像3チャンネル、再生機3台、ステレオ1組 554×465×800cm
ナム・ジュン・パイク《時は三角形》(1993) ネオン管5本、木製台、アクリル絵具、ネオン管5本、木製台、アクリル絵具、モニター72台、映像4チャンネル、再生機4台 262(右、左辺)×240(後)×269(高さ)cm

 2階の展示室では「森 ── 自然と文明の相反する共存」が行われる。フロアを覆い尽くすのは、1993年に同館の空間に合わせて制作された大作《ケージの森/森の啓示》。実際の生きた木々を配置し、植物の匂いや変化していく生命空間をつくりあげる。ここにパイクの代表的な立体作品である《時は三角形》(1993)や《ロボットK-567》(1993)を織り交ぜることで、過去・現在・未来が幾重にも折り重なる「無限のいま」を体感させる空間となる。

ナム・ジュン・パイク《TVフィッシュ》(1975) 熱帯魚、水槽、モニター、映像1チャンネル、再生機1台 サイズ可変

 3階では「縁 ── 拡がり続けるコミュニケーション」が展開。未公開のコラージュ作品を含む20点以上の平面作品や、発想の源泉であるドローイングを中心に、ブラウン管を用いた立体作品《TV植物》(1980)などを展示 。1984年に世界同時生配信されたサテライト・アート《グッド・モーニング・ミスター・オーウェル》(1984)に代表されるように、パイクはテクノロジーによる「人間や世界の新たな縁」を見据えていたといえる。本フロアでは、金魚が泳ぐ水槽の背後で映像が流れる《TVフィッシュ》(1975)などを通し、スマートフォン時代においてさらに増幅する「縁」のあり方を問いかける。

ナム・ジュン・パイク《返る心》(1988)白い紙にパステル 58.5×77.5cm

 4階の「心 ── 未来へ受け継がれるパイクの精神」では、会場全体に三原色の壁面投影が広がる《ニュー・キャンドル》(1993)を中心に、「心」にまつわる作品群を展開。さらに吹き抜け空間には、LEDパネルによってパイクの詩の作品《for Mr. 1 & Mr. 1》(1964)が流され、館内全体にパイクの「ハート」が届けられる。かたちをとどめず揺らぐ火のようでありながら、時代を超えて受け継がれていく作品を通して、美術館に遺されたパイクの精神を未来へとつなぐ。

 パイクの誕生日であり「海の日」でもある7月20日には、表参道にある善光寺を会場に、没後20年の記念シンポジウム「パイクのVIDEA いろいろ2026」が開催される。批評家/哲学者・浅田彰、メディア・アーティストの落合陽一、八谷和彦らを迎え、21世紀のアートの礎を築いたパイクの思想を振り返りながら、その先の未来について議論を交わす貴重な機会となりそうだ。また、秋にはtwelvebooksの出版による日英バイリンガルの関連書籍の刊行も予定されている。

編集部

Exhibition Ranking