同世代で同時期にドイツのデュッセルドルフで学び、ドイツと日本の2拠点で、プライベート上のパートナーとしても活動をともにしていた大垣美穂子と佐藤雅晴。その2人の展覧会「尾行ー不在の存在/存在の不在」が、東京・新宿のKEN NAKAHASHIで開催される。コロナウイルス対策のため3月31日より臨時休廊、同ギャラリーの公式YouTubeチャンネル上などで、展覧会風景の動画や写真を今後配信する予定。
佐藤は、10年におよぶ癌との闘病生活の末、同ギャラリーでの初個展「死神先生」の開催期間中である2019年3月9日に死去。佐藤の一周忌にあたる時期にあわせて開催される本展では、大垣と佐藤の作品に共通して、「不在と存在」や「生前と死後」などの相反する要素が内包されている点や、作品化する対象を自分のなかに取り込み「尾行」しようとする側面に焦点を当てる。
いっぽう、13年にくも膜下出血を発症し、闘病期間を経て病を克服した大垣は、立体やインスタレーション、ドローイング、映像、パフォーマンスなど多岐にわたるメディアによって、生きることや老いること、そして死を表象してきた。
デュッセルドルフ・クンストアカデミー在学中には、3年におよぶ制作期間を経て、レインボービーズで表面を埋め尽くした乳母車と霊柩車を用いたシリーズ「before the beginning—after the end #1」(2003)と「before the beginning—after the end #2」(2003-05)を発表。本シリーズは、生前に見るビジョンと死後に見るビジョン、あるいは誰もが語り得ない領域をテーマに何枚ものドローイングを描き、それらを連続させることで映像化し、乳母車と霊柩車内に設置したビデオ・サウンドインスタレーションだ。
鑑賞者は、乳母車の内側を覗き込み、または霊柩車の内部に身を横たえると、生前と死後に見るビジョンとサウンドを耳目に触れることができる。乳母車と霊柩車というふたつの乗り物が成す対抗律といった相反する要素を同居させることで、始まりと終わりが連続する様や宇宙的で広大なスケールの時間軸へと、鑑賞者を誘う作品だ。本展を開催するにあたって、大垣は乳母車をモチーフにした作品を再構成して発表する。
相反する要素を共存させるという特徴は、実写をパソコン上でトレースし、「ロトスコープ」の技法を用いてアニメーション化させた佐藤の作品に漂う、どこか奇妙なリアリティにも共通する。佐藤は、日本に帰国した10年、上顎に癌があることを発見。その後、度重なる手術や放射線治療、抗癌治療などを行いながら、自分の身体がどうなっていくのかという個人的な現実問題として、生や死、絶望や希望、不在や存在ということに向き合ってきた。
誰もいない部屋や、日本の国歌が流れるカラオケボックスなどで、ただひたすら鳴り続ける電話を描いた《Calling》(2009-14/2018)、原発事故や津波で人がいなくなった震災後の福島の風景を、癌に侵されるなかでも撮り続け、未完ながらも発表した《福島尾行》(2018)など、一連の作品は、不在または存在という互いに拮抗するテーマが軸となっている。
本展では、佐藤の代表作のひとつであり、19年に森美術館で開催された「六本木クロッシング2019展: つないでみる」でも発表された作品《Calling(ドイツ編、日本編)》(2009-2014/2018)と、約4年の制作期間を経て、08年5月、六本木にかつてあった住宅展示場で開催され、佐藤の日本デビューとなった展覧会「第4回 団・DANS ―The House―現代アートの住み心地」で初めて発表された作品「TRAUM」(2004-07)を組み合わせて展示を構成する。