死を目前に放たれる無数の光。
大垣美穂子「Threshold」が問いかけるものとは?

東京・新宿のKEN NAKAHASHIで5月6日まで、大垣美穂子による同ギャラリーでは初の個展「Threshold」が開催されている。無数の光を放つ立像に込められた思いとは?

大垣美穂子 Milky Way - Threshold 01 2017 ©︎ Mihoko Ogaki Courtesy of KEN NAKAHASHI

 大垣美穂子は1973年富山県生まれ。95年に愛知県立芸術大学美術学部美術科油画専攻を卒業し、96年からドイツ国立デュッセルドルフ・クンストアカデミーに留学。2004年に同大学を卒業し、14年間ドイツで活動した後、10年にその拠点を日本に移した。

 くも膜下出血での闘病期間を経て、病を克服した大垣は、立体、インスタレーション、ドローイング、映像、パフォーマンスなど多岐にわたるメディアによって、「死」や「老い」に対する畏怖と崇敬を具現化した作品を発表してきた。これまでに、銀河のような光を放つ年老いた人物をかたどった立体の《Milky Way》シリーズ、メルセデス・ベンツを解体そして無数のビーズで装飾し、その内部に鑑賞者が「死体」として身を横たえる宮型霊柩車を模った《before the beginning – after the end》などを制作。それらの作品は、自らの身体をもって制作され、無数の穴やビーズ、光などの集合体で構成される。

 作品の制作過程について大垣は「最初粘土で型をつくってから、石膏型を取ってFRPや紙でつくるのですが、型を取っていくとだんだん最初につくった像と異なって、歪みが出てくる。しかし、その歪みが、まさしく老人じゃないと出ない歪みだったりする。立体をつくっている時の偶然の歪みが、自分が頭で考えて作る歪みよりもリアルだ」と語っている。

 「死を目の前に向かう新境地。物事の開始点」を意味する「Threshold」と題された本展で発表する新作は、腰を曲げつつも立ち上がり、前に進もうとする立像。FRPでつくられた作品の表面には感情のメタファーとして無数の穴が開けられており、ギャラリー全体が銀河のように光り輝き、そこはまるでプラネタリウムのようだ。光を放つ立像と対峙し、大垣の提示する「生」「死」「老い」に触れてみてはいかがだろうか。

編集部

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