ZESはロサンゼルス出身のアーティスト。ギャングによる暴力行為や政府主導で繰り広げられた麻薬撲滅キャンペーンなどでアメリカが荒廃を極めた1990年代に、グラフィティライターとしてのキャリアをスタートさせた。
12歳でグラフィティを始めて以来、手が届かないほどの壁や建物の出っ張りに複雑なマーキングを残してきたZES。15歳になる頃には、伝説的なグラフィティ集団「MSK(Mad Society Kings)」の一員となり、しばしば高層ビルやビルボードによじ登り、極限的な場所に野心に満ちた作品を描いた。
実験的かつアグレッシブなアプローチで、グラフィティ界に革命的な影響を与えたZES。長年にわたる危険なシチュエーションでの制作経験から生み出されるその作品は、ほかにない切迫感や剥き出しの感情が、スプレーやローラー、ブラシなどの、ZESとともに旅してきたツールによって増幅して表現される。
2012年には初の個展を行い、作品の支持体を壁からキャンバスにシフト。そんなZESの個展「BENEATH THE SURFACE」が、現在、東京・麻布のカイカイキキギャラリーで開催されている。
本展は、赤と青という「色相」「シンボリズム」などの観点において真逆の関係にある2色で描かれた最新作を紹介するもの。一連の作品群を通じて、ZESは、赤と青の対照的な第一印象から生まれる誤った二分化に異議を唱える。
波乱と分断の様相を呈するいまのアメリカを生きるZES。本展は、そういった情勢を極端に単純化したり政治化したりする風潮から距離を置いたZESの、一個人としての成長や苦闘を象徴する展覧会だ。本展は、ZESの孤高な精神性を、もっとも率直なかたちで見ることができるだろう。