「作家だけを海外に出せばいい」ではない
──日本側でも、KOGEIを世界へ発信するための新しい取り組みが始まっています。そのひとつが、文化庁と日本芸術文化振興会が支援し、東京美術倶楽部が主催する「KOGEI GENE(コウゲイ・ジーン)」です。工芸・古美術の価値を国際的なアートマーケットに対して発信できる「KOGEI アート・プロデューサー」の育成を目指すというプロジェクトですね。山口さんも講師として関わっていらっしゃいます。どのように見ていますか。
山口 非常に画期的なプロジェクトだと思います。
19世紀の万国博覧会では、日本が工芸品を海外へ持っていき、日本文化を紹介すると同時に販売もしていました。今回はその現代版とも言える。万博が、いまならアートフェアになるわけです。
重要なのは、現代工芸だけでなく過去の工芸を含めた日本の歴史について、少なくとも英語で外国の人に説明でき、紹介し、さらにセールスすることもできる人材を育てようとしていることです。

──これまで国は、アーティストを海外へ送り出すことには取り組んできました。ただ、作品の価値を伝える「裏方」の人材育成は十分ではありませんでした。
山口 僕からすると「やっとわかってくれたか」という感じもあります(笑)。海外で現代美術作家を売り出すときには、アーティストひとりだけが動くわけではありません。批評家、美術館のキュレーター、アートディーラーなどが一緒になって進んでいく。そのうえで国が支援することもある。
つまり、作家だけをただ海外に出せばいい、作品だけを出せばいいわけではない。プロデューサーが必要なんです。
──では、日本のKOGEIを海外に紹介する人には、具体的にどのような能力が必要なのでしょうか。
山口 まず、海外のファインアート市場の「ゲーム」に参加できなければいけない。海外でアートがどのように評価され、売買されているのかという仕組みを理解する必要があります。
そして、日本のKOGEIが世界のアートのなかでどこに位置し、ほかにはない何を持っているのかをきちんと文章化することです。コンテクストがなければ、海外に売り込むことはできません。
もうひとつ重要なのは、海外の美術館とのコネクションです。マーケットだけで終わらせず、アカデミズムのなかにKOGEIという分野を根付かせていく。それくらいのことを考えないといけないと思っています。
──「KOGEI GENE」は、縄文時代から続く日本の美意識と技を国際的に正しく評価し、流通させることをビジョンとして掲げています。こうした取り組みを、クリスティーズというオークションハウスの立場からどのように評価していますか。
山口 個人的には、ぜひサポートしたいと思っています。日本美術は、オークションハウスでも長い歴史のなかで扱われてきました。これまで「工芸品」という括りだけではなく、「Fine Japanese Art」や「Works of Art」など、様々なカテゴリーのなかで紹介されてきました。現在では、日本美術のカテゴリーのなかで現代の工芸作家の作品が扱われるいっぽう、デザインの分野でも取り上げられるようになっています。冒頭でも申し上げたように、今後はオークションハウスのなかでも、ジャンルとジャンルの境界がさらに曖昧になっていく可能性が高いと思います。
そうした意味でも、この動きは非常に歓迎すべきものです。KOGEIのマーケットがさらに形成されていけば、オークションハウスにとっても、日本にとっても大きなプラスになるのではないでしょうか。
──マーケットの観点から見て、KOGEIは投資資産としても期待できるのでしょうか。
山口 現時点では、なんとも言えません。マーケットがそこまで成熟していないからです。
これは僕がオークションのスペシャリストとしてずっと言い続けていることですが、基本は「好きなものを買う」ことです。好きで買って持っていて、それが将来高くなったらよかったね、と。
ただしKOGEIが現代美術やデザインのコンテクストにきちんと乗っていけば、資産価値が上がっていく可能性はあると思います。



















