新たな一着が誕生するまで
このデザインの採用背景には、美術館側が新たな選定基準を導入したという取り組みがある。過去2回のユニフォーム選定においては、いずれも同館での展覧会の開催や発表といったつながりを持つデザイナーが起用されてきた。しかし、今回の20周年のリニューアルに際しては、協働の有無にかかわらず、「現在の時代状況において美術館が提示すべきコンセプト」を重視するという、これまでとは異なるアプローチがとられた。
リニューアルプロジェクトは2024年5月中旬、学芸部内から広く意見を募るかたちで開始された。そのなかで、地球環境や社会課題に対してアプローチを試みるCFCLの姿勢に複数の推薦が集まり、翌6月に同ブランドへの依頼が決定。この打診に対し高橋は、同館の20周年という節目の大役であったことや、高橋自身が学生時代から同館に何度も足を運んでおり、日本を代表する美術館として強い思い入れを抱いていた背景から、このオファーを快諾したという。
同年7月にCFCL側から提示された複数のデザイン案に対しては、館内メンバーが実際に検証し、話し合いを重ねて合意形成を図るプロセスが踏まれた。候補者の選定開始から約2ヶ月半というスピードでデザインが最終決定され、その後の制作期間を経て、2025年2月より現場での着用が開始されている。
ファッションという鏡が映し出す、美術館の未来への意志
「ファッションとは、社会情勢やライフスタイルの変化をそのまま写し込む鏡のようなもの」と高橋は語る。近年のリモートワークの普及や働き方の多様化に伴い、人々の装いは合理性を伴いながらカジュアル化の動きをたどってきた。ネクタイの着用やヒールのある靴といった従来の制約が減少するいっぽうで、着心地が良く柔軟性のあるTシャツやニット素材が選択される傾向が定着しつつある。従来は、フォーマルな接客を伴う業務でニットやTシャツが制服として採用される事例は極めて限定的であった。しかし、CFCLが持つ技術とデザインのアプローチは、ニット素材を用いながらも、来館者に対する敬意や品格を保持する衣服のあり方を実証している。
個性の尊重が基本となる現代において、ユニフォームが果たす役割は「全員を一律の枠に統率する記号」から、「その組織のメッセージ性や姿勢(アティチュード)を示すための媒体」へと移行しつつある。衣服が着用者のアティチュードを示すものであるならば、ユニフォームは組織としての姿勢を視覚的に伝達する機能を担う存在だと言えるだろう。
また今回キーワードとなった「環境配慮(サステナビリティ)」について高橋は、「意識的に取り組むもの」としてではなく、現代社会において「意識せざるをえないもの」として存在していると指摘する。
そうした社会の要請を反映したユニフォームを、パブリックな空間である美術館が選択し、スタッフがそれを着用して来館者を迎えるというアプローチ──高橋はこれを「カジュアル化の進行やサステナビリティの追求が交差する『これからの社会の在り方』を先取りし、社会に向けてその姿勢を提示するという、美術館側の明確な意思表明とも捉えられる」と語る。
開館時の「ジェンダーフリー」から、10周年の「調和・自然との融合」、そして20周年の「サステナビリティ」へ。同館における3世代のユニフォームの変遷は、美術館がそのときどきの時代精神を反映させながら展開してきた20年の歩みそのものである。美術館がユニフォームを刷新するということは、空間における視覚的要素の更新にとどまらず、新しい時代に向けた美術館の思想を提示することに直結している。CFCLの衣服を身にまとったスタッフが行き交う同館の風景は、これからの10年、来館者に対して新たな社会の在り方とその視座を示し続けることになるだろう。
美術館のメッセージや姿勢を示すための媒体として機能する「ミュージアムユニフォーム」。金沢21世紀美術館の事例をひとつの契機として、全国各地にあるいろんな美術館のユニフォームとその背景にある思いにも目を向けてみたい。



















