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有識者が選ぶ2022年の展覧会ベスト3:沢山遼(美術批評家)

数多く開催された2022年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は美術批評家・沢山遼のテキストをお届けする。

文=沢山遼

「メディウムとディメンション:Liminal」展の展示風景より、(中央手前)古橋まどか《辻、朽ちる、生す》、(右)磯谷博史《補助線》、(左)鈴木のぞみ《Other Days, Other Eyes:柿の木荘102号室東の窓》、(中央奥)山根一晃《リフォーム》、(右奥〈柱〉)長田奈緒《room number sign(#104 kakinokisou, Tokyo)》、(右奥〈シンク上〉)高田安規子・政子《Back and forth》 撮影=赤石隆明

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」(国立西洋美術館/10月8日〜2023年1月22日)

「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」の展示風景より

 ベルリン国立ベルクグリューン美術館のコレクションを展示。ドイツ生まれの美術商ハインツ・ベルクグリューンのコレクションは、マティス、ピカソ、クレー、ジャコメッティの4人の作家に絞られており、本展もその4人を軸とする。この4名にセザンヌなどの作品を加えた良質なコレクションもさることながら、良質なクレー作品が34点展示されているので選んだ。日本ではほとんど紹介されたことのない、まとまった数のクレー作品を日本で見ることのできる貴重な機会であったと思う。

岡﨑乾二郎「TOPICA PICTUS Revisited: Forty Red, White, And Blue Shoestrings And A Thousand Telephone」(BLUM & POE 東京/9月24日~11月6日)

岡﨑乾二郎「TOPICA PICTUS Revisited: Forty Red, White, And Blue Shoestrings And A Thousand Telephone」展の展示風景より © Kenjirō Okazaki, Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo. Photo by SAIKI

 岡﨑が、2021年10月に脳梗塞に倒れたあと、壮絶なリハビリを経て、1年を置かず開催した新作個展。精神と身体を再生すること、環境との新たな認知のネットワークをつくること、そこに広がる世界の可塑性を認識すること……等々といった、病を経て岡﨑にもたらされたであろう経験は、じつは絵画を見るときに私たちが経験するものでもあったのかもしれない。絵を見ることは、その意味でふたたび生まれること、生き直すことに結実する。とはいえ、そのような経験が得られることは稀である。が、筆者にとって、岡﨑の新作絵画こそは、そのようなものとしてあった。

「メディウムとディメンション:Liminal」(柿の木荘/9月3日~27日)

「メディウムとディメンション:Liminal」展の展示風景より、津田道子《階段を上る》(2022) 撮影=赤石隆明

 美術批評家・中尾拓哉によるキュレーション。神楽坂にある木造アパート「柿の木荘」を舞台として、その改修工事のタイミングに合わせて企画された現代美術展である。建築は、度重なる改修という作業において、(航海を終えたときにはひとつとして同じ部品が残っていなかったという「アルゴ船」のように)いくつもの部品を取り替えながらその同一性を維持している。本展に集結した作品群は、いずれも、事物の組成の解体と再構築を通して、建築の改修という出来事にコミットするものであった。空間や時間といった諸次元を、高い精度で分解ー分析し、組み立て直す作品が並んだ。

編集部

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