近年のアートマーケット再編をめぐる議論では、商業面や制度面における停滞への危機感が繰り返し語られてきた。しかし、そのいっぽうで、成長や前進はどのような領域で見られているのだろうか。また、こうした再編は、規模の拡大と成功を同一視して肥大化してきた市場において、そのトップが直面する衰退から立脚し、是正の契機となることができるのか。同時にこの現状は、市場のトップからのトリクル・ダウン(*1)ではなく、芸術的な革新を支える別のエコシステムへと焦点を当てるための、余白を生み出しているのかもしれない。
本稿で注目したいのは、そのひとつの実践として存在するロサンゼルスのオルタナティブ・シーンである。ロサンゼルスには国際的なメガギャラリーや主要な美術館が集まり、現代アート市場の重要な拠点のひとつとなっている。そのいっぽうで、小規模なギャラリーやオルタナティブ・スペース、そして広告ではなく批評を重視する言説のネットワークが、市場とは異なる論理で創造性を支える場を形成している。本稿では、そうした動きをロサンゼルスのアートシーンから考えてみたい。
*1──富裕層や大企業が豊かになることで、その利益が自然と低所得層や中小企業に行き渡り、経済全体が潤うとする経済理論。
ロサンゼルスが育むもうひとつのアートワールド
テイスト・メーカーと言われる人々が市場に奉仕せざるをえない環境からは、文化的革新は生まれにくい。私はこれまでに、文化の中心地とされてきたニューヨークと、ハリウッドの街として知られながら、美術文脈ではしばしば過小評価されてきたロサンゼルスの2都市を拠点としてきた。その経験からいえば、アートワールドが1960〜80年代のニューヨークに見出してきた創造性や実験精神は、いま別のかたちでロサンゼルスに息づいている。
もちろん、当時のニューヨークがそのまま再現されているわけではない。しかし、ロサンゼルスにはアーティスト、批評家、アートスペース、ギャラリーが相互に支え合い、市場原理の支配から一定の距離を保ちながら活動する独自のエコシステムが存在している。そこでは、アートそのものへの情熱と信念が活動の原動力となり、革新を育む土壌が形成されているのだ。

ロサンゼルスのオルタナティブなアートシーンは、その好例と言える。ここでは主流市場とは異なる流通ネットワークが形成され、市場の不安に左右されることなく実験的な試みが可能となっている。実際にこの街で活動するなかで、若いギャラリーやオルタナティブ・スペースのネットワークが市内各地に次々と生まれていく様子を目の当たりにしてきた。彼らはキャリア初期のアーティストに発表の場と支援を提供すると同時に、比較的手の届きやすい価格帯で作品を購入できる市場をつくり出している。
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