• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「松元悠 イメージのあなた」(黒部市美術館)開幕レポート。出…

「松元悠 イメージのあなた」(黒部市美術館)開幕レポート。出会ったことのない他者を、いかに想い続けられるのか【3/3ページ】

個人の出来事、そして社会と接続する版画

 誰にとっても身近な表現手法であり、ときに社会運動とも強く結びついてきた版画の側面をとらえるのが「運動と版画」だ。ここでは、民衆が声を上げた歴史的出来事を題材とした作品を紹介する。

 特筆すべきは、同館のある富山県で1918年に起こった「米騒動」をテーマとする《お救い米》(2025)、《哀訴嘆願》(2025)の2つの作品だ。《お救い米》には、騒動の発端となった旧十二銀行の米倉と、そこに押しかけた主婦たちの幻影が描かれている。昨今話題となった「令和の米騒動」の記憶とも共鳴し合う作品群だ。

右から《お救い米》(2025)、《哀訴嘆願》(2025)

 「日常と版画」には、松元自身が個人的に忘れられないニュースを題材にした作品群が並ぶ。同僚の死をきっかけにその人に思いを馳せ続けた連作や、フィリピンで戦死した松元の曽祖父とその娘たち(松元の祖母と大叔母)をめぐる《アルマゲール島(祖母と大叔母の話)》(2018)など、作家自身と直接的・間接的な関わりをもつ人物や場面が描かれている点が特徴だ。

「日常と版画」のセクション
《アルマゲール島(祖母と大叔母の話)》(2018)かきた紙にリトグラフ 148×188cm

 松元が制作において一貫して持ち続けている視点がある。「情報を受信したその瞬間に湧き上がる想いは、いかにリアクションからアクションへと変容しうるのか」「刹那的で間接的な情報から相手を想い続けることは、立場や距離、時間を超えてどこまで可能なのか」。その問いに対する姿勢がよくわかるのが、最後のセクション「版画の後日談」だ。

「版画の後日談」の展示風景

 「作品をつくって終わりにしたくない」。そう語る松元は、折に触れて自身の作品を振り返り、制作後も当事者の変化を見つめるようにアプローチを重ねている。

《サラバ化物》の後日談(2023〜26)
《窓(栄村)》の後日談/補講展示計画(2019)映像 4分45秒

 本展は、松元のおよそ10年に及ぶ活動を見渡すことができるとともに、全国的には知られていない、しかし確かな意味をもつ身の回りの出来事を掬い上げてきた「受信者」としての軌跡でもある。ニュースや事件をただの情報として消費するのではなく、人と人との関係性や対話として当事者に思いを寄せ続ける。それこそが、アーティスト・松元悠の揺るぎない態度なのだと感じられた。