身の回りの出来事をイメージ化する
まず「物語と版画」では、学部時代の初期作品4点を展示。幼少期から宗教画を見るのが好きだったという松元は、その影響もあってか、独自の解釈で世の中の出来事や物語をイメージ化することを始めたという。

「ニュースと版画」では、国内のニュースを題材に現地を巡って観察を重ねた作品群を紹介する。例えば2018年に制作された《窓(栄村)》は、その前年に松元がネットのニュースで偶然見かけた、長野県の「栄村大震災」をテーマとした作品だ。2011年3月11日に起こった東日本大震災の翌日に発生したマグニチュード6.7にも及ぶこの地震は「忘れ去られた大震災」とも呼ばれ、松元自身も発生から7年後に初めて知るという経験をした。

本作について印象深いエピソードとして松元が明かすのが、現地取材の際、復興村営住宅の住民が窓から自分の様子をうかがっていたという出来事だ。「見ているはずが見られる側になっていた」という関係性の反転は、部外者として出来事に関わる自身の立ち位置や、描く/描かれる関係性を批評的に自覚させる契機として、松元の表現者としての姿勢に深く結びついているように感じられる。

続く「法廷と版画」では、法廷画家として出会った事件をモチーフとした作品を取り上げる。当初、松元は「法廷での仕事を自分の作品にはしない」と決めていた。しかし、ニュースとは異なり法廷には事件の当事者が目の前にいること、さらにスケッチに即効性が求められる仕事ゆえに、当事者たちを理解するための時間がもっと必要だと感じたことが、松元の姿勢に変化をもたらした。
なかでも2024年の「サラバ化物」シリーズは、法廷で見聞きした当事者の姿や発言、読み上げられた文章などが作品やタイトルに反映されており、松元の想像力によって立ち上げられた情景が事件の生々しさを克明に伝える。

松元の活動のなかでも、ポスターや広告への関心に注目するのが「産業と版画」のセクションだ。ここでは、一次産業を知るべく琵琶湖の漁師らと協働して生まれた版画作品や、産業へのコミットを目的としたクロモカード(商品購入時に付属するリトグラフ印刷のトレーディングカード)を展示している。

また「日用品と石版画」では、貴重な資料や図版、芸術作品の複製を担ってきたリトグラフの歴史的役割に着目。ここでは、明治初期に蜷川式胤(にながわ・のりたね)が手がけた古器物の記録『観古図説』にならい、松元は公的な記録からこぼれ落ちてしまう個人の生活や記憶を宿すものとして、大量生産された日用品を石版画の形式で残すことを試みている。




















