富山県黒部市の黒部市美術館でアーティストユニット・キュンチョメの個展「魂の色は青」が開幕した。会期は12月17日まで。
キュンチョメはホンマエリとナブチによるアーティストユニットで、2011年の東日本大震災を機にアーティストとしての活動をスタートした。制作行為を「新しい祈り」ととらえるキュンチョメは、様々な社会問題や自然災害をテーマとする作品を発表。そこに関わる人々と正面から向き合うことで、複雑に絡まる感情や交錯する意見を反映させながら作品へと昇華させてきた。近年ではハワイやフィリピンに滞在し、現地での経験を創作に活かしている。
今回の展覧会は、すべて海で制作された新作で構成された。まず、会場の冒頭では小さな石とドローイングが並べられた作品《ヘソに合う石》(2023)がある。キュンチョメのホンマエリは一日中浜辺に寝そべって海を見ているとき、傍らの石の触り心地がよく、そして自分のヘソにちょうどはまることに気がついたという。太陽の熱を帯びた石のぬくもりが腹部から自分のなかを通り抜け、地球へと伝わって自分と関係を結べるような感覚にになり、それ以来自分のヘソにあった石を集め続けているという。
《ためいきでうかぶ》(2022)は、ホンマの気分が沈み、外に行くのも嫌で、ため息ばかりついていたときに制作した映像作品だ。沈んでいく気持ちを浮き上がらせるために、自らのため息を風船に貯めて、海に浮かんでみることにしたという。波間に浮いているうちに、ホンマの気分は楽しくなり、次第に気持ちも明るくなっていったそうだ。
《海の中に祈りを溶かす》は(2022-2023)は、ホンマが海中に沈みながら祈りの言葉を唱える映像作品。水中では祈りの言葉を口にしても聞こえることはないが、その声は泡となって水面へと上昇していく。富山の立山信仰をはじめ、世界中の人々が古くから色々なところで祈ってきたことにも思いを馳せた本作は、縦長の大型ディスプレイ会場内に海をつくりだすようだ。
《金魚と海を渡る》は、品種改良を重ねて愛玩として小さな水槽のなかで、育つ金魚への憐憫が発端となった作品だ。狭い世界しか知らない金魚を淡水の袋にいれて、広大な海を泳ぐという本作。ホンマが泳いだ海は水深もあり不安もあったというが、時折袋のなかの金魚と目が合うことに勇気づけられたという。金魚を大海に連れ出すという発想の豊かさに驚くとともに、魚と人間の小さなコミュニケーションを見出したくなる作品だ。
ほかにも、住所があいまいなフィリピンで宅配業者にランドマークを伝えることのおもしろさを題材にした写真作品《曖昧なランドマーク》(2022)や、フィリピンのいたるところで揺れているTシャツのような自由な美術館を表現した屋外作品《洗濯物美術館》(2022-23)など、いずれの作品もキュンチョメが様々な場所で目にし、コミュニケーションをとった体験が作品となっている。
多くの市民が余暇を過ごす黒部市総合公園の入口に位置する黒部市美術館は、散歩のついでに立ち寄る人々も多いという。その幅広い視野と国内外で自らが知覚したことを端正な表現でアウトプットするキュンチョメの作品は、人々の日常のなかにある様々な可能性に気づかせてくれるはずだ。