「国際美術展 TOKYO ATLAS」開幕レポート。東京湾岸エリアの歴史を紐解き、現代と接続する【2/3ページ】

青海南ふ頭公園 地下駐車場

 青海南ふ頭公園の地下に広がる巨大な駐車場もまた、本展の重要な会場だ。地上と地下の二層構造によるアプローチこそ、この青海エリア最大の醍醐味と言える。

青海南ふ頭公園の地下駐車場(*)

 ここでは、ムン・キョンウォン&チョン・ジュン、カウィター・ワッタナチャヤンクーン、イペェ・ヌル、潘逸舟(ハン・イシュ)、ムハンナド・ショノ、ケイティ・パターソン、篠田太郎、ジュリアン・シャリエールという8組のアーティストが、東京湾岸エリアの場所性を捉えた表現を展開する。いくつかピックアップして取り上げたい。

カウィター・ワッタナチャヤンクーン 《Traffic》(2026) Courtesy of the artist and Nova Contemporary 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 バンコク出身のカウィター・ワッタナチャヤンクーンは、女性の家事労働や工業用機械の動きを自身の身体を用いて表現した映像・写真インスタレーションで知られ、近年も「恵比寿映像祭2025」(東京都写真美術館、2025)や「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」(アーツ前橋、2024)などで注目を集めた。本展では、地下駐車場を舞台にしたある風景を4つの映像作品として展示。車を走らせながらも地下から抜け出せずにループする。手持ちのカーブミラーに映し出されるその異様な光景を通じ、現代の開発競争や進歩への疑問を突きつける。

潘逸舟《波になる》(2026) Courtesy of the artist and ANOMALY 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 上海出身で東京を拠点とする潘逸舟は、「海」を主軸に自らの身体を介在させた映像を手がけてきた。湾岸エリアを舞台とする本展で彼が着目したのは、人々が地盤を固める作業の際、息を合わせるために歌った「木遣り唄(きやりうた)」だ。作品を通じて、その声をいま再び埋立地へと響かせている。

ケイティ・パターソン《Earth-moon-earth (Moonlighy Sonata Reflected From The Surface of The Moon)》(2007) 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 スコットランドを拠点とするグラスゴー出身のケイティ・パターソンは、新作インスタレーションを発表。地下空間で一際存在感を放つグランドピアノは、ベートーベンの『月光』をモールス信号に変換して宇宙へ送信し、返ってきた信号を再び楽譜に起して演奏しているという。東京の静かな地下空間と遥かなる宇宙が交わす、壮大なセッションを思わせる。

台場エリア(お台場海浜公園、台場公園)

 台場エリアの会場となるのは、人工の砂浜を擁し、海へと広がるダイナミックな景観を誇るお台場海浜公園。そして、幕末の砲台跡であり、歴史の記憶を抱えながら現在は都立公園として親しまれる台場公園だ。

イケムラレイコ《ムーンラビット・ランディング》。高さ6.4メートルのこの大型彫刻は、イケムラの作品においても最大級を誇る 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 少女性をテーマに世界を紡ぐイケムラレイコは、「月のうさぎがお台場に降り立つ」というコンセプトのもと、大型彫刻《ムーンラビット・ランディング》をお台場海浜公園の浜辺に据えた。童心を象徴するその佇まいは、都市の秘めたる可能性や未来を提示している。

石毛健太《2026年の太平洋ラジオ火事》(2026) 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 また、浜辺を歩いていると、足元から伝わる微細な振動と独特な音声に気づく。これは、石毛健太が埋立地の砂下にスピーカーを埋め込み構築した、サウンドインスタレーションだ。流れてくるのは在日米軍に向けたAMラジオをはじめとした音声であり、黒船来航や東京大空襲といった記憶が眠る人工の浜辺で、日米の距離感を改めて測り直そうと試みる。

台場公園の展示風景より。手前は草間彌生《ナルシスの庭》(1966 / 2026)。奥は趙要《Something in the Air》(2019) ともにCourtesy of Ota Fine Arts 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局
水木塁《P⁴ (Pioneer Plants Printing Projects) #Daiba Park》(2026) 撮影:守屋友樹 写真提供:国際美術展「TOKYO ATLAS」広報事務局

 隣接する台場公園では、赤い石に教文を刻んで信仰を深めるチベットの風習をモチーフとした趙要(ジャオ・ヤオ)の《Something in the Air》(2019)や、草間彌生の《ナルシスの庭》(1966 / 2026)といった巨大インスタレーションを展開。さらに植物やハエをモチーフにした水木塁の作品も配され、マクロとミクロの視界が交錯するユニークな空間が広がる。

台場公園の階段には車椅子が設置。スタッフも常駐しており、車椅子の利用者も作品にアクセスできるとのことだ(*)

 また、本会場のアクセシビリティ面にも触れておきたい。台場公園の鑑賞には階段の昇降が不可欠となるが、現地にはその移動をサポートする専用車椅子が用意されていた。場所性が鍵となる芸術祭において、足の不自由な鑑賞者への配慮はつねに課題であるが、本展では初期段階から対応が議論されていたという。

 公式ウェブサイトには各会場のバリアフリー情報が掲載されているため、足を運ぶ際はあらかじめ確認しておくとよいだろう。

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