「集める」だけではない。コレクションを未来へつなぐ
さらに見逃せないのが、小室翠雲《海寧観潮》(1922)だ。本作は、中国・杭州近郊の海寧で起こる海嘯(満潮時に海水が河川を逆流する現象)を題材とした作品。現地での観察に基づく細密な描写によって、その壮大な自然現象がとらえられている。
同作は2025年、バンク・オブ・アメリカの文化財保存プロジェクトによる助成を受けて修復され、本展で修復後初公開となった。

美術館のコレクションについて考えるとき、注目されるのは往々にして「何を持っているか」という点だ。しかし、美術館の仕事は作品を収集し、展示することだけではない。それらを適切に保存・修復し、次の世代へと継承していくこともまた、コレクションを有する美術館の重要な役割である。そうした意味で、本作の修復後初公開は、山種美術館の60周年を考えるうえでも象徴的な出来事と言えるだろう。
山種美術館の山崎妙子館長は、急速に進展するAI技術にも言及しながら、日本画の価値について次のように語る。「AIが急速に発展するなか、岩絵具や金箔が織りなす本物の輝きや、四季を描く精神性は人々に感動をもたらすと信じている。日本画の魅力を世界へ、未来へと発信し続けたい」。
1966年の開館から60年。山﨑種二というひとりのコレクターの情熱から始まった山種コレクションは、作品の収集と保存を重ねながら、今日まで受け継がれてきた。重要文化財を含む名品の数々を鑑賞するだけでなく、「なぜこの作品がここにあるのか」という視点から見ていくと、その背後には画家とコレクターの交流、そして美術館の歴史が浮かび上がってくる。開館60周年という節目に、コレクションの原点と、名品を未来へと伝える美術館の役割を改めて考えさせる展覧会となっている。



















