リヨンから太平洋まで
1991年に始まったリヨン・ビエンナーレは、85年に終了したパリ・ビエンナーレに代わる「フランスにおける現代美術の大規模イベント」として位置づけられ、現在まで続いている。84年開館のリヨン現代美術館(Musée d'art contemporain de Lyon、以下macLYON)館長を長年務めたティエリ・ラスパイユが創設し、地域に根ざした文化機関と外部の国際的なキュレーターをつなぐ方式を定着させてきた。その後、ラスパイユの後任として同館館長に就いたイザベル・ベルトロッティが、2019年から芸術監督も引き継いでいる。
第18回のゲスト・キュレーターは、90年代からベルリンを拠点に活動し、現在ハンブルガー・バーンホフ現代美術館に在籍するキャサリン・ニコルズ。2022年にプリシュティナで開催されたマニフェスタ14に携わり、歴史や場所、物語と観客との関係を重視してきた実践がベルトロッティの目に留まった。シドニー出身であるニコルズには、リヨンと太平洋地域をつなぐ媒介者としての役割も期待された。フランスでは同地域のアートに触れる機会がまだ少なく、オーストラリア先住民の美術を欧州で紹介するオパール財団や、アオテアロア・ニュージーランドの現代美術を海外に発信するOffice for Contemporary Art Aotearoaなども協力している。
国際展として、こうした見どころと実施のための予算にも毎回関心が集まる。今回は約800万ユーロを投じ、42の国・地域から120名/組のアーティスト(うち女性は7割近く、2割強が35歳以下)による400点もの作品を展観する規模となった。そのうち約70点が新作だ(*1)。
*1──公的パートナーに文化省、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏、リヨン・メトロポール、リヨン市が名を連ねるが、公的資金は近年減少方向にあり、多くのメセナや地元企業の協力によっても支えられている。2026年2月16日付のリヨン・メトロポール委員会資料による2026年の予算総額は766万ユーロ。内訳は、キュレーション・作品制作・展示設営などの芸術関連約215万ユーロ、運営費約246万ユーロ、会場整備・警備約100万ユーロ、観客向け事業約99万ユーロなど。出典: République française, Métropole de Lyon, Extrait du registre des délibérations de la commission permanente, commission permanente du 16 février 2026, délibération n°CP-2026-5001.

「経済」と私たちの関係を結び直す
ニコルズがリヨン・ビエンナーレのオファーを受けたときは、ドナルド・トランプの米国大統領再選と重なったという。「世界を大きく左右するお金の力を前に、どうにかしなければという感覚から出発した」と本人は話す。そこで向き合ったのがアートを通じた「経済」だ。子供の頃に見た海賊のイメージや英語圏の物語、そこに潜む帝国主義や社会の歪みに気づき、様々な思想に触れ、アーティストや多くの人々との対話を行き来しながら、貨幣や市場だけに占有されない経済の姿を考えていく。
たどり着いた本展のテーマは「Passer d’un rêve à l’autre(ある夢から別の夢へ)」。足がかりとなったのは、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』と、ロベール・フィリウの「詩的経済」(*2)である。都市と資本主義を通じた「集合的な夢」をめぐる思考と、アーティストの立場から経済構造や価値を問い直す仕事を参照し、そこからケアや依存、交換、分配などへと経済の意味を広げていった。
鑑賞者はまず、旧市街でいまも利用されるトラブール──建物の内部を横切り、別の通りへ抜けていく独特の通路──を通るよう促される。かつて商品の移動や第二次世界大戦時のレジスタンスの活動を支えた都市構造を体験し、その先にあるmacLYON、織物装飾芸術博物館、旧フランス国鉄技術センター「レ・グラン・ロコ」へ向かう。作品を見るために街を移動するのではなく、街を通過しながら境目や敷居をまたいでいくこと自体が、作品を見る行為になる。
*2──フランス生まれのロベール・フィリウ(1926〜87)は、米国のUCLAで経済学を学んだのち、詩人・アーティストとして活動し、フルクサスにも参加した。「詩的経済(Principes d’économie poétique)」は、芸術を通じて既存の経済構造や「価値」のあり方を問い直し、交換や共有、協働による別の経済の可能性を探る考え方。フィリウの作品や思想は、リヨン・ビエンナーレの複数会場で紹介されている。































