「瀧本幹也 LUNATION 朔望─海から天体を読む」(茅ヶ崎市美術館)開幕レポート。海辺の美術館でたどる、光と天体をめぐる写真表現の軌跡

神奈川県の茅ヶ崎市美術館で「瀧本幹也 LUNATION 朔望─海から天体を読む」が開幕した。会期は11月8日まで。会場の様子をレポートする。

文・撮影=大橋ひな子(編集部)

瀧本幹也《LUNATION》(2026、一部)

 神奈川県の茅ヶ崎市美術館で「瀧本幹也 LUNATION 朔望―海から天体を読む」が開幕した。会期は11月8日まで。担当は同館学芸員の藤川悠。

 瀧本幹也は1974年生まれ、愛知県出身。1990年、16歳で写真の世界に入り、98年に瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、エディトリアル、作品制作、コマーシャルフィルム、映画など幅広く活躍してきた。映画撮影では是枝裕和監督作品『そして父になる』(2013)でカンヌ国際映画祭コンペティション審査員賞、『海街diary』(2015)で日本アカデミー賞最優秀撮影賞、『三度目の殺人』(2017)でヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門を受賞するなど、国内外で高い評価を得ている。

 国内美術館で初の大規模個展となる本展は、初期から最新作まで、代表作をはじめとする多様な作品群を一堂に鑑賞できる機会となっている。海辺の街である茅ヶ崎というロケーションや、自然光が差し込む建築といった同館の特性を活かし、地上と地下の展示室で独自の作品世界が展開されている。

地上展示室──代表作品群と「朔望」の原点

 地上の展示室には、活動初期を含む代表作シリーズが並ぶ。本展は、月の満ち欠けを表す「朔望(さくぼう)」をテーマに選定された作品群によって構成されているが、本展企画のきっかけとなったのが、会場入口に飾られた《EBOSHI-IWA》(2020)だ。本作は2021年に同館で開催された「human nature Dai Fujiwara |人の中にしかない自然」のための共同制作として、コロナ禍真っただ中の2020年3月に撮影された。茅ヶ崎のシンボルである烏帽子岩の上空から、ヘリコプターを旋回させて撮影するなかで、瀧本はスケールの感覚を失い、それがどこかの島や細胞、あるいは惑星の地表のようにも見えてきたという。ミクロとマクロの境界が揺らぐ感覚が表された作品だ。

瀧本幹也《EBOSHI-IWA》(2020)
瀧本幹也《MONGOLIAN TRIBE》(1997)

 また、瀧本が22歳だった1997年、写真家・藤井保の助手時代に1ヶ月間モンゴルの遊牧民を捉えた《MONGOLIAN TRIBE》も展示されている。自身もゲルに寝泊まりしながら撮影された本シリーズは、草原からの反射光を頼りにゲルの入り口で撮影された。作品に近寄ると、被写体の瞳にカメラを構える瀧本の姿が映り込んでいることがわかる。

瀧本幹也《CHIGASAKI SEA》(2022)

 茅ヶ崎とのゆかりを示す作品として《CHIGASAKI SEA》(2022)も挙げられる。本作は、宇宙飛行士・野口聡一が宇宙で全曲作詞を手がけ、ミュージシャン・矢野顕子が地上で作曲したアルバムのために撮り下ろされた。瀧本は宇宙から見下ろした地球の姿を茅ヶ崎の海に重ね合わせ、海面に揺れる光に生命の起源を見出した。

左壁は瀧本幹也《GRAIN OF LIGHT》(2014、一部)、右壁は瀧本幹也《LAND SPACE》(2011、一部)
瀧本幹也《LAND SPACE》(2011、一部)

 ほかにも、多様な海面の表情を捉えた《GRAIN OF LIGHT》(2014)、ケネディ宇宙センターのスペースシャトルと、空を入れずに撮影することで別の惑星のようにも見える地球の姿を対比させた《LAND SPACE》(2011)、インドネシア・イジェン火山で発生する硫黄ガスの光「ブルーファイア」を撮影した《FLAME》(2017)など、瀧本の創作活動を代表する作品群が並んでいる。

編集部