中田家住宅旧米蔵「治癒の家」
第2会場の中田家住宅旧米蔵は「治癒の家」と名づけられている。「愛」はときに人を傷つけることもある。いっぽうで、傷ついた誰かを治し、癒やす「愛」のかたちもある。「愛」の多義性がここでは表現されている。

会場の外壁や物置には野良犬たちの写真を使用した新作《あなたの傷が癒えますように》(2025)が展示されている。なんらかの理由で体毛を失ってしまった野良犬たちの毛を、刺繍をすることで補うという作品。「刺繍をしている時間は、自らも治癒されるようだった」と語るホンマ。会期中の4月19日にはキュンチョメと犬の写真に刺繍をするワークショップも開催予定だ。


米蔵の内部で上映されている新作《Ghost in the ocean》(2025)は、海中を漂うゴミを題材とした作品。キュンチョメは海の中を漂っていたプラスチックゴミを回収し、をれを人型に切って、ふたたび海中を漂わせる作品にした。海の中を漂っているプラスチックは、循環に加われずに何年も彷徨い続ける存在だ。キュンチョメはその姿に、環境問題を超えた現代の人間の孤独を見出したという。魚群にも交われず、儚く寂しげに漂うその姿は、ときに美しいとも感じられる。

林家住宅旧米蔵「祈りの家」
第3会場の林家住宅旧米蔵は「祈りの家」と名づけられた。ときに無意味なものとされがちな「祈り」だが、キュンチョメはこの「祈り」は絶望の先を照らすために手放せない「愛」として位置づけた。

蔵の中で上映されている映像《海の中に祈りを溶かす》(2022-23)は、海に沈んでいくホンマが祈りや願いを何度も唱える作品。水中なのでその声は響かないが、海面に向かって昇っていく泡を見ていると、それがいつか、どこかの誰かに届くかのような印象を受ける。

蔵の外にある《一粒の琵琶湖と歩く》(2026)は、本展の締めくくりにふさわしい作品と言えるだろう。器には琵琶湖の水が入っており、スポイトでそれを吸い上げて指に載せることができる。一粒の琵琶湖の水とともに街を歩き、そして琵琶湖に返す。水とともに生きてきた土地を、身体で感じることができるはずだ。

街の歴史を、「愛」という素直な言葉ですくい取り、作品を展開したキュンチョメ。正面からとらえるには少しの気恥ずかしさもあるこの言葉だが、水滴を指に乗せながらたどり着いた琵琶湖の雄大な景色を見ていると、その言葉で表すべきものが、本当は身の回りにもたくさんあることに気付かされる。




















