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「キュンチョメ 100万年の子守唄」(滋賀県高島市)開幕レポート。水の街を水と巡り「愛」と向き合ってみる【2/3ページ】

旧福井盛弘堂「つながりの家」

 第1会場となっている旧福井盛弘堂は、50年前まで和菓子店として営業していた。竹の皮で包んだ「丁稚羊羹(でっちようかん)」を看板商品に、地域で長く親しまれてきましたものの、素材の要である井戸水の質の変化によって、暖簾を下ろすことを余儀なくされた。キュンチョメは設営中、この店のかつての顧客だった地域住民から「本当においしい羊羹だった」という話をよく聞いたという。閉業して50年を経てもなお、地域の人々の記憶に残る店だ。

旧福井盛弘堂「つながりの家」。屋根に刻まれた「水」の文字は火災から建物を守るための「少除け(ひよけ)」のまじない

 キュンチョメはここを「つながりのいえ」と名づけ、「愛」を受け取る場所として機能させる。玄関の大型スクリーンで上映されているのは、《金魚と海を渡る》(2022)だ。愛玩用として狭い水槽のなかで育てられる金魚は、淡水魚であり大海を泳ぐことは決してできない。しかしホンマは金魚をビニール袋に入れ、それを手にしながら金魚と海を泳いだ。金魚の姿に抑圧されてきた女性の姿も重ねながら、海のなかで金魚と人間のあいだに生まれた小さな「愛」を表現している。

《金魚と海を渡る》(2022)。金魚を入れたビニール袋を前に掲げながら泳ぐホンマエリ

 畳の小上がりをはじめ、本会場のいたるところで展示されているのが新作の写真作品《あいまいな地球に花束を》(2025)だ。ハートが半分になった形状の植物を探し出し、もう半分を片手で加えることで、完全なハート形をつくり出し撮影する本作。普段は見過ごしてしまう道端の植物に「愛」の象徴であるハートをつくり出そうとする試みだ。

《あいまいな地球に花束を》(2025)。植物のツルと手を合わせることでハートをかたちづくる

 また、旧福井盛弘堂の内部には小豆を煮るためのかまどや薪、餡を量った天料はかりといった設備のほか、羊羹の包みや箱、製造のための道具などが残る。キュンチョメはそれらをひとつの場所に集め、《あいまいな地球に花束を》の写真を添えた。店が歩んできた時間への愛しみが、小さな祭壇のように表現されている。

集められた羊羹づくりの道具と《あいまいな地球に花束を》

 会場の窓際には《ヘソに合う石》(2023)を展示。一日中フィリピンの浜辺に寝そべって海を見ていたホンマは、傍らに落ちていた石が自分のヘソにぴったりとはまることに気がついたという。「ヘソは母体とのつながりが絶たれた跡であり、ひとりで生きていくことの寂しさの象徴」と語るホンマ。太陽の熱を帯びた石をヘソに乗せると、そのぬくもりが腹部から自分を通り抜け、地球とつながっていくような体験を得られたという。今回の会場では、会場近くにある琵琶湖の名勝・萩の浜で探してきた、新たな「ヘソにぴったりな石」も展示されている。

《ヘソに合う石》(2023)のドローイングと萩の浜で拾ってきた石

 かつて台所だった空間では、新作《あいまいな地球に花束を》(2025)が展示されている。キュンチョメは世界中の様々な人々に、各々の頭のなかにある世界地図を描いてもらった。各国で生きる人それぞれの世界観が現れた地図を、地球儀状の花瓶に写し、それぞれに花を一輪ずつ生ける。外光が注ぐ薄暗い台所のなかで、いくつもの世界地図が青く光っている。各地域の人々の主観で描いた世界地図は曖昧だが、キュンチョメはこの曖昧さを肯定的にとらえている。一人ひとりの地球のあり方が共存する「愛」が溢れた曖昧さだ。

《あいまいな地球に花束を》(2025)。台所のいたるところに地球儀型のガラスと一輪の花が置かれている
《あいまいな地球に花束を》(2025)と店舗内に残されていた酒器