いっぽうで、こうした日常の風景だけでなく、内面の世界や北欧の神話を表現した画家たちもいた。第5章「現実のかなたへ 見えない世界を描く」ではこした作品が紹介されている。
アウグスト・マルムストゥルム(1829〜1901)は北欧の歴史や伝説、神話をテーマとした作品を制作しており、勇士フリッティオフの冒険とインゲボリ姫との恋を描く北欧の伝説のひとつ『フリッティオフ物語』を題材にした連作を描いた。

また、グスタヴ・アンカルクローナ(1869〜1933)は、北欧ならではの自然風景に、歴史的なロマンを感じさせるモチーフを組み合わせた作品を描いている。緯度の高い北欧らしい、日没後と夜明け前に長く続く、空が青みがかった時間を表現した《太古の時代》(1897)などはその典型だ。

最後となる第6章「自然とともに 新たなスウェーデン絵画の創造」は、本展の白眉となる章だ。本章では1890年代以降、スウェーデンの風景画は新たな展開を迎え、森、湖、山岳、岩礁の海岸線、雪の大地など、スウェーデンらしい自然の風景が改めて「発見」された時代の作品を紹介している。

スウェーデン中西部のラッケン湖畔に定住し、同地の冬の情景を描いたグスタヴ・フィエースタード(1868〜1948)。《冬の月明かり》(1895)は月に照らされる冷たくも柔らかい雪の表情や、針葉樹のグラフィカルな枝ぶりの表現など、寒さのなかにどこか親しみを感じられる作品だ。

国王オスカル2世の末子であるエウシェーン王子が、スウェーデン絵画の黄金期を代表する風景画家だったことも、国のアイデンティティと風景がいかに強く結びついていたのかを物語っている。《静かな湖面》(1901)は、夏の北欧のいつまでも沈みきらない日の光のつくり出す空気感が詩情豊かに表現されている。

写実的なだけではない風景表現も、20世紀になると行われるようになる。カール・ノードシュトゥルムはこの時代になると、鮮やかな色彩と太く強い輪郭線によってスウェーデンの風景を表すようになる。力強く立体的な岩礁と複雑な色の空の光が、情緒をこめて表現された《チルケスンド》(1911)のような作品は、本展で見てきたスウェーデン絵画の変遷のひとつの結実といえるだろう。

「北欧の神秘─ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画」(SOMPO美術館、2024)や 「スウェーデン国立美術館 素描コレクション展―ルネサンスからバロックまで」(国立西洋美術館、2025)など、近世から近代にかけての北欧絵画に注目が集まる昨今。安直なフランスからの影響ではなく、自国のアイデンティティと結びついた作品を、とくに風景と結びつけながら表現しようとしたスウェーデンの画家たち。その功績を、豊富な作品群でたどることができる展覧会といえるだろう。



















