
京都のアートイベントとして恒例となった「ARTISTS' FAIR KYOTO」が今年も開かれる。アーティストによるアーティストのためのフェアを標榜するAFKの大きな特長となっているのが、第一線で活躍するアーティストが「アドバイザリーボード」となり、みずからこれぞという若手作家を推薦する仕組みだ。ボードメンバーとして参画している大巻伸嗣と、大巻の推薦でAFK2025に参加し、「ARTISTS' FAIR KYOTO 2025 マイナビ ART AWARD」で最優秀賞を受賞した本岡景太が、同フェアを振り返り、今後の展望を語り合った。
アートフェアという「他流試合」への挑戦
──大巻さんがARTISTS' FAIR KYOTO(以下、AFK)のアドバイザリーボードとして参画なさった経緯と理由を教えてください。また推薦作家はどのように決めたのでしょうか。
大巻伸嗣(以下、大巻) 私が参画したのは「ARTISTS' FAIR KYOTO 2025」からです。AFKディレクターの椿昇さんから連絡をいただき、アドバイザリーボードへの誘いを受けました。日本のアート界で若いアーティストがどう自活していくかを考え、実践する場だとの説明を聞いて、その趣旨に賛同しました。そうした課題については、私も以前から気にかけていたので。AFKはすでにお寺など開かれた場所でフェアを展開してきており、多様な対話が生まれる場を毎年つくり上げています。アトリエに籠もりがちな学生や若手アーティストにとってAFKは、「外の世界」や「アートを買う人」との接点を見出す、いいきっかけになるでしょうから、まずは私自身の参加を決めました。

アドバイザリーボードになると、若手出品作家を推薦する役割が与えられます。さて、だれを推せばいいか。そのとき、まだ作品発表の機会が少なく、けれどおもしろい試みをしている人を選ぼうと決めました。そう考えて周りを見渡したとき、頭に浮かんだのは本岡景太さんでした。私が勤める東京藝術大学内で、本岡さんの制作風景はよく目にしており、日頃から「これ何? どういうこと?」と、あれこれ気になって尋ねることが多くありました。彫刻をつくる際、多くの人は壊れにくい丈夫な素材を使うのに、彼は珍しく紙を用いていました。制作プロセスも独特で、「歪曲張り子」という技法を自分で編み出していた。活動拠点の関東から離れた京都で彼の作品を見せたらどういう反応があるだろう?と、すごく興味が湧いたのを覚えています。

──本岡さんは推薦されたときのことを覚えていますか。
本岡景太(以下、本岡) あるとき、大巻先生に「AFKで展示することに興味ある?」と声をかけていただきました。なぜ私を選んでくださったのか自分ではわかりませんでしたが、展示の機会があることは私たちの年代にとって本当にありがたいことだったので、ぜひとお返事しました。私にとっては「他流試合」であるAFKという場所に臨むことに決まったあとも、どんな作品をどう展示すればいいかについて、折に触れてアドバイスをいただきました。

「売れる・売れない」は結果の問題
──大巻さんはAFKに初めて挑む本岡さんにどのようなアドバイスをされたのですか。
大巻 最初に伝えたのは、「売れる作品に落とし込みすぎないように」ということでしたね。アートをやっていくうえで「売れる・売れない」というのは結果の問題であって、それよりまずは自分が表現したいものを存分にやり切ることが大事ですから。
本岡 会場構成を考える段階になると、いっそう熱を込めて色々教えていただきました。心に残ったのは、「展示はあまり見やすくしないほうがいい」という言葉です。
大巻 そうだったね。あまりにすっきりわかりやすい展示にし過ぎると、見る側はひと目で「そうかそうか、わかった」という気になって、すぐ見切られてしまうおそれがあります。なんらかの理由で見えづらいところがあり全体像がつかみづらかったり、歩いて回り込まないと見えなかったりすれば、鑑賞者は身体を使って動き回り、作品と空間を体感することとなります。私はよく学生に、「アートが人に提供できるサービスとはなんだろう?」と問いかけます。例えば彫刻ならば、ある場所で作品と直接出合ったからこそ味わえる身体的な体験をもたらすことが、最良のサービスだと私は思います。若いアーティストにはそれぞれ、自分の作品がお客さんにどのように楽しんでもらえるか、作品とどう関わってほしいのか、よくよく考えてほしいです。

本岡 大巻先生は開幕前日にも電話をくださって、「フェアからちょっと逸脱するぐらいの展示を目指したほうがいい」という言葉をいただきました。言われた通りに思い切りやったつもりではありましたが、展示は結局、自分で納得いくものとはほど遠くなってしまいました。それでもフェアが始まると、たくさんの人に来てもらえたのはありがたかったです。いざ展示が始まって気づいたのは、お客さんとの距離の近さです。展示会場にいるとみなさんどんどん話しかけてくださり、質問もたくさんいただきました。「なぜこんなやり方してるの?」「どんな紙を使ってるの?」など、制作意図や素材についてまで、作品の本質に鋭く迫ってきます。東京で展示していても、ここまで突っ込んだことはなかなか聞かれません。

──大巻さんも京都は東京と違うと感じますか。
大巻 土地柄が大きいのでしょう。人のつながりの密度が高くて、「あなたはだれ? どんな人?」という問いを突きつけられるところがある。もちろん本岡さんの作品がそれだけ人の目を惹いていたというのもあります。結果として、若手展示作家のなかから選ばれる「ARTISTS' FAIR KYOTO 2025 マイナビ ART AWARD」最優秀賞も受賞したのですからね。絵画的な要素を含む彫刻であり、空間をねじ曲げてしまうような存在感を持った作品は、ほかにないおもしろさを持っていて、受賞に値するものだったと思います。
本岡 賞をいただけるとは思っていなかったので驚きました。加えて作品がほとんど売れたのも、まったく予想外のことです。作品に対して厳しい指摘をしつつ買ってくださる方もいたりして、人とのつながりがアートを回していくものなのだというのを実感しました。
大巻 顔を突き合わせて話をしたうえで買ってくれた人は、今後もきっと応援してくれます。そういう応援団を増やしていくのが大切で、それには展示を重ねていくしかない。本岡さんは最優秀賞受賞者として、「ARTISTS' FAIR KYOTO 2026」の会場である東福寺で個展ができます。貴重な機会と捉えて生かしたいところですね。

もがきながらも前に進む第一歩に
──今回、受賞者として開催する個展ではどのような作品を見せるのでしょうか。
本岡 個展のタイトルは「IMMANENT FOLD:図像と物質の内在的折り目」としました。絵と彫刻のあわいについて考えているのはこれまでと同じなのですが、両者のより直接的な関係を構築しようとしたのが今回の出品作です。実際のマンガ雑誌を変形させたり、イラスト入りのビニールプールを用いたりと、既製品のなかにある「絵」を彫刻に取り入れようとしています。展示場所が東福寺の書院だというのはあらかじめ聞いていたので、その場に馴染むものというより、いかにも合わなさそうなものを置きたくなって、現代的な商品を作品内に取り入れました。そうして彫刻としての輪郭を際立たせてみたかったのです。輪郭とは絵画における概念であり言語なので、輪郭を際立たせることがまた絵画的な空間の入口になるのだろうかと考えました。

大巻 どんな空間になるか楽しみですね。彫刻はとくにそうですが、展示して初めて見えてくる側面がきっとあるものです。アトリエで悶々と制作しているときと外に出したときでは、作品の見え方は明らかに違ってきます。ましてや会場は東福寺の内部。あそこで展示するのは大変なことです。私も2025年のAFKでアドバイザリーボードとして展示に参加し、東福寺の空間と対峙しました。空間に負けず、それでいて調和するものをと考え、床の間に《Drawing in the Dark》(2024)を掛けました。真っ暗闇のなかで何時間も、ひたすら手を動かし続けて描いたドローイングです。何かをつくろうとすると、どこか理屈や説明をつけたくなるものだけど、そこをぐっと我慢して、もっと自分の身体性を前面に出し、内と外が溶けて曖昧になるような領域に踏み込む。そうして闇のなかから、自分の揺らぎみたいなものを感じ、つかんでレコードしていく。そういう行為によってできているのがこの作品です。自分のやっていることはまるで写経だなと思うところもあって、東福寺の空間にもきっと合うだろうと思いました。

本岡 大巻先生の作品はいつも、「存在は知っていたけれどまだ見たことがなかったものを、目の前で見せてくれる」という驚きの感覚があります。私もそういうことをやりたいのですが、実際にやってみるとどうしても、思っていたのとは違うものができてしまう。形式的で説明的なところが出て、小さくまとまってしまうといいますか......。人が抱く大きな問いに応えられるようなスケール感をどうやったら出せるのか、模索しています。

──AFK2026の来場者には、どのようにフェアを楽しんでもらいたいですか。
大巻 本岡さんはまだ若くて、これから50年でも作品をつくっていける。つくり続ければいったいどこまで行けるか想像もつかないわけなので、もがきながらも前に進んでほしいです。その第一歩がAFK2026での展示になるのだと思います。AFKは、足を運べばアーティストが目の前にいるという稀有なアートフェアです。見に来られる方にはぜひ、作品を味わうと同時に、若いアーティストにあれこれ聞いてみていただきたいです。アーティストと聞くと「ちょっと怖そう」「難しいこと言われそう」という気がするかもしれませんが、そこにいるのはただひとりの若者です。なんでもいいのでおしゃべりして、ときには作品について厳しい指摘もしてくだされば、それがアーティストの糧となります。
本岡 その通りです。会場でひとりでも多くの方とお会いし言葉を交わせたら、自分にとっては励みにも学びにもなります。作品の前でお待ちしています。









