なぜルウィットはいまなお多くの関心を集めているのか。それは、アイデアやプロセス、そしてそれを他者と共有するための指示書を重視した芸術への関わり方が、現代においても大きな影響を与え続けているからだ。本展では、そうしたシステムや構造に対するルウィットの関心が、大きく2部構成で提示されている。
前半の展示室では、主にウォール・ドローイングや立体・平面作品が並ぶ。例えば、展覧会の始まりを飾る《不完全な開かれた立方体 6/20》(1974)は、立方体の面がすべて成立しておらず、その名の通り不完全な構造を持つ作品だ。本作は、永遠に完成しないものとして、展覧会の冒頭と終盤の両方に配置されており、プロセスを重視したルウィット作品の本質と本展の意図を象徴している。


会場には様々な作品が点在しているが、やはり注目したいのは、本展にあわせて制作された「ウォール・ドローイング」6点である。これらは、ルウィットが残した文章や図面による指示をもとに描かれたものであり、「アーティスト本人以外の手で描かれること」を重視したルウィットの思想が色濃く反映されている。指示書自体はルウィットの存命中に作成されたものだが、他者の手によって何度も新たに実現されるウォール・ドローイングは、ある種のライブ感を伴い、フィジカルな体験として鑑賞者の目の前に立ち現れる。


もっとも広い展示室には、ウォール・ドローイングと立体作品があわせて設置されている。《シリアル・プロジェクト #1(ABCD)》(1983)は、グリッド上に立方体をはじめとする構造体が複数立ち上がり、形態の違いや展開のプロセスを視覚的に示す作品である。使用する形や色彩を最小限に留め、構造の変化やその広がりに焦点を当てることで、完成した形そのものよりも、どのようなルールによって生み出されているのかを考えさせる点に、本作の大きな特徴がある。


前半最後の展示室で注目したいのは、《ウォール・ドローイング #770 カラー・インク・ウォッシュを塗り重ねた非対称のピラミッド》(1994)だ。壁面に広がる6色は、赤・青・黄・黒(グレー)を混色して描かれたもので、ひとつ前の展示室とは打って変わり、より絵画的な表現が印象に残る。アイデアが簡潔であればあるほど他者と共有しやすいと考えていたルウィットだが、1980年代以降の作品からは、その思想を保ちつつも、新たな表現の可能性を模索し続けていた姿勢がうかがえる。




















