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東京国立近代美術館で見るソル・ルウィットの巨大ウォール・ドローイング。現代美術の「醍醐味」とは?

東京国立近代美術館では現在、同館が2018年に購入したソル・ルウィットの巨大ウォール・ドローイングが公開されている。所蔵品ギャラリー3階の「建物を思う部屋」に完成したこの作品の見どころとは?

展示風景より、ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》(1994) Courtesy the Estate of Sol LeWitt, Massimo De Carlo and TARO NASU Copyright the Estate of Sol LeWitt.

 ミニマル・アート、コンセプチュアル・アートの代表的作家として知られるソル・ルウィット(1928〜2007)。その大作を、いつでも見られるスペースが東京国立近代美術館に誕生した。

 同館3階にある吹き抜け空間「建物を思う部屋」での常設展示が始まったのは、ルウィットの「ウォール・ドローイング」シリーズのひとつである、《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》(1994)だ。

《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》(1994)の展示風景

 ルウィットは1928年コネチカット州ハートフォード生まれ。55〜56年まで建築家、I.M.ペイのもとでグラフィックデザインの仕事に就き、66年から立方体の基本構造をシステマティックに視覚化した「シリアル・プロジェクト」シリーズを制作。65年から2007年に逝去するまで、MoMAやテート、サンフランシスコ美術館、ロサンゼルス現代美術館など世界中の美術館で数多くの展覧会を行うなど、20世紀を代表するアーティストのひとりとして知られている。

 68年頃より、自らが関与することなく指示書によって第三者に制作を委ね、決まった長さの線を放射状に描く「ウォール・ドローイング」シリーズを展開。その数は生涯で1200点以上にのぼる。ルウィット亡き後も、彼あるいは彼のエステートが指定した「ドラフトマン」と呼ばれる人間によって作品は制作されており、本作も日本在住のドラフトマン・趙幸子の手によって、美術館の壁面に描かれた。

《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》(1994)の展示風景

 本作の展示に携わった同館主任研究員・保坂健二朗は、この作品を収蔵・常設展示した理由について次のように話す。「コンセプチュアル・アートの代表作であるルウィットの『ウォール・ドローイング』は、国内の美術館には収蔵されていません。この作品は『ウォール・ドローイング』の特徴をよく表したものなので、それを常設として展示できればと考えていました」。

 また、国内の美術館ではコンセプチュアル・アートのインスタレーションが常設展示されている例が少ない、ということも今回の常設展示につながったと保坂は言う。

 今回の作品は、約90×90センチの矩形をひとつの単位とし、その矩形のなかに16種類の円弧、直線、非直線が2つずつ組み合わされ、全120通りのパターンによって構成されている。極めてシンプルな線のみで描かれているにも関わらず、底しれぬ魅力がそこにはある。

《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90cm)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》(1994)の展示風景

 「この作品はとても単純なルールによってつくられていますが、機械的なものには見えない。円弧同士が連続したり円弧と非直線がつながったりと、隣のグリッドとリンクすることで多様な展開が生まれている。しかもそれは、壁のプロポーションが変われば、また違う展開になるのです。『多様における統一』というのが、クラシカルな美学における美の定義。そうした美の本質が抽象的なドローイングからわかるというのは非常に面白いし、『これぞ美術』だと言えるでしょう」。 

 吹き抜けの空間に展示されたルウィットの「ウォール・ドローイング」は、世界的にも珍しいという。この空間だけでしか見ることができない「ウォール・ドローイング」。本作品の展示期間は終了時期が決められておらず、当面は「建物を思う部屋」で見ることができる。このためだけに足を運ぶ価値のある作品だと言えるだろう。

編集部

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