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台中市立美術館開幕レポート。芸術都市・台中にSANAA設計の新たなランドマークが誕生【5/6ページ】

 「The Troubling of Natural Histories」は、博物館学や自然史を支えてきた分類体系や知のシステムが揺さぶられ、再編される章だ。

「The Troubling of Natural Histories」の展示風景

 本章を象徴する作品は、ヨーゼフ・ボイスの《Bathtub》(1986)だろう。錆びついた浸透式の加熱装置がバスタブ状のオブジェに入っており、そこには無機的ながらも温もりの存在が認められる。太古の遺物と、現代の文明のなかでつねに忘れ去られているものを組み合わせ、そこに奇妙な類似を見せる、ボイスならではの考古的発想を楽しみたい。

展示風景より、ヨーゼフ・ボイス《Bathtub》(1986)

 「Folds and Flows」は、空間、時間、風景、アイデンティティ、記憶など、我々が生きる現在がいかに多層的かつ相互的に成り立っているかを考察する章だ。この展示室では、アドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)のドリル状の作品の最終部分を見ることができる。その素材は木材やアルミなど、本館を建築した資材の物質性がより強調されたものとなっている。

展示風景より、左がアドリアン・ティルソ《Post-Museum Evidences(the Drill)》(2025)

 最後となる章が最上部の展示室で展開されている「When the World Begins to Speak」だ。ここでは傷ついた身体や引き裂かれた記憶、抑圧された感情、人間のコミュニケーションを超えた生命の声などを表現した作品が展示されている。

 脳性麻痺をもって生まれ、身体に対して不親切な建築構造と向き合ってきたムン・スンヒョン(文勝鉉)の《On Thin and Transparent Things》(2025)は、本館を舞台にした映像作品だ。作家自身を含む3人のパフォーマーが、美術館の展示室のなかで波や振動を体現する。残留する埃、解体後に残された足場、開放された展示空間のなかで展開していく身体の反響や変容が記録されている。

展示風景より、ムン・スンヒョン(文勝鉉)《On Thin and Transparent Things》(2025)

 チョン・インチェン(鄭尹真)とコー・チュンイオウ(高俊羅)によって設立されたアプローチング・シアターは、社会的な課題と呼応する演劇作品を制作している。2チャンネルのビデオと手紙などからなる《From Y to X》(2025)は、日本統治時代の台湾で、第二次世界大戦中に神風特攻隊の訓練が行われていた水湳飛行場の歴史に向き合った作品だ。台湾は、当時の空写真、現代の戦場イメージ、そして書き記された証言を織り交ぜながら、そこにあったであろう身体的経験を会場で体現させた。

展示風景より、アプローチング・シアター《From Y to X》(2025)

 建物の屋上には「屋上ガーデン」が設けられており、外に出ることができる。ここは図書館とのあいだを行き来できるハブとしても機能し、太陽光や風を感じながら広大な公園を見下ろすことができる憩いのスポットにもなっている。

屋上ガーデン