「杉戸洋展:えりとへり / flyleaf and liner」(弘前れんが倉庫美術館)開幕レポート。「余白」への眼差しから生まれる、いまここの表現【2/3ページ】

 同館ならではのコールタールの黒い壁沿いに進むと、広い展示会場につながる。四角形の空間に、三角柱の壁が建てられたつくりは、杉戸の作品によく登場する四角形と三角形を、より大きなスケールで三次元的に再現しているように感じられる。ここでは、市販の壁紙のうえに服部がデザインした壁紙が貼られている箇所があり、その間に杉戸の作品が並ぶという興味深い構成がなされている。

展示風景より
展示風景より、市販の壁紙のうえに服部の壁紙が重ねられている様子

 服部曰く、「杉戸さんは空間の質感やテクスチャーといった細かいところまでよく見て考え、表現に生かしている」。明治・大正期に酒造工場として建てられ、2020年に建築家・田根剛が「記憶の継承」というコンセプトのもと改修を行い誕生した同館。その煉瓦倉庫が持つ歴史や独特の空気感、質感を感じ取って会場を構成していることが随所から感じられる。

 そんな杉戸の哲学をもっとも強く感じられるのが、同会場の一番奥に展開されているインスタレーション作品だ。制作現場と表現したほうがいいようなその空間は、実際本展の設営中「制作現場」であった。設営中に次々と生み出される作品の数々はここで制作されており、まさに杉戸のアトリエと化していた空間を、そのまま会場に残している。自身にとって制作途中にこそ価値があると話す杉戸は、自らのエネルギーがもっとも凝縮された「制作過程」「制作現場」を見せることを試みている。

展示風景より、杉戸洋、服部一成《えりとへりのテーブル》(2025)(2階から撮影)
展示風景より、杉戸洋、服部一成《えりとへりのテーブル》(2025)(一部)

 また他者と協同することにも大きな価値や可能性を感じるという杉戸は、ブラジル・サンパウロ出身のアーティストであるゴクラ・シュトフェルの作品を本展で紹介している。杉戸がブラジルを訪れた際に出会い、衝撃を受けたというゴクラの作品を、この「制作現場」に持ち込み、自らの制作のインスピレーション源にしていたという。ほかにも、90年代に制作した未発表の作品に、20年以上たって手を加えた作品らも紹介されており、いまここでしか見られない作品・空間が広がる貴重な機会となっている。

展示風景より、ゴクラ・シュトフェル《コンストゥルサォン(構造)》(2023)
展示風景より

編集部