はじめに──“ライシテ”という眼差しで美術史を照らす
フランス共和国の根幹を支える理念のひとつ、「ライシテ(laïcité)」。この言葉を「政教分離」と訳すだけでは、その思想の奥行きは伝わらない。それは国家と宗教を分ける制度であると同時に、信じる自由と信じない自由を平等に保障するための精神の原理である。
宇都宮美術館で開催中の「ライシテからみるフランス美術—信仰の光と理性の光」は、この理念を鍵に、18世紀末から20世紀半ばまでのフランス美術を縦断的に見直す意欲的な試みだ。

本展を企画したのは、同館学芸員の藤原啓氏と本展巡回先である三重県立美術館学芸員の鈴村麻里子氏。 藤原氏は、今回の展覧会を次のように位置づける。「フランス共和国の根幹となる重要な概念のひとつ『ライシテ laïcité』をテーマに、その形成と変遷の歴史に沿って作品を紹介し、フランス美術史を問い直そうという、世界でも初めての展覧会です」。
ライシテは、抽象的な思想として語られることが多い。だが本展は、その理念がどのように社会の現実と結びつき、どのように芸術表現へと形を変えていったのかを、歴史的にたどる。
信仰と理性、宗教と国家、そして個人と共同体。それらのバランスが時代ごとに移り変わる過程を、美術の変遷を通して体験的に示している。つまり、思想の歴史を“見る”ことができる展覧会である。

本稿では、展示構成に沿って、その変化の軌跡を追っていこう。壁に掲げられた絵画や彫刻を通じて、フランスという国がいかに“光”を切り替えながら信仰と理性を調和させてきたのか──。その最初の舞台が、18世紀末のフランス革命、「二つのフランスの争い」である。


































