第3章「神殿のための絵画」
本展でハイライトとなるのがこの第3章だ。
1904年、アフ・クリントは「5人」の交霊の集いにおいて、物質世界からの解放や霊的能力を高めることによって人間の進化を目指す、神智学的教えについての絵を描くようにと告げられる。この啓示によって生み出されたのが、全193点からなる「神殿のための絵画」だった。
「神殿のための絵画」は途中4年の中断期間を挟みつつ、1906年から1915年までの約10年をかけて制作されたもので、アフ・クリントの画業の中核をなす作品群とされている。
「神殿のための絵画」は、「原初の混沌」「エロス」「10の最大物」「進化」「白鳥」といった複数のシリーズやグループから構成されており、すべてが眼に見えない実在の知覚、探求へと向けられている。その眼に見えない実在の対象は霊的なものに限らず、X線や放射線なども含まれており、精神的・科学的探究の双方が絵画へと具現化されている点に大きな特徴がある。



なかでも大きな存在感を放つのが、10点組の絵画「10の最大物」だろう。これらは、1907年にアフ・クリントが人生の4つの段階(幼年期、青年期、成人期、老年期)についての「楽園のように美しい10枚の絵画」を制作する啓示を受けて描いたもの。乾きの早いテンペラ技法により、たった2ヶ月で高さ3メートルもの巨大サイズの絵画10点を制作した。
背景の色彩によって段階が分かれており、幼年期は青、青年期はオレンジ、成人期はパステル調の紫、老年期はピンクとなっている。神智学における輪廻転生の教えを反映した、No.10から再びNo.1へと戻るような円環構造は、展示構成にも反映されている。




この章は、「神殿のための絵画」の集大成として位置づけられる「祭壇画」3点で締めくくられている。モチーフはこそれまでの「神殿のための絵画」と共通するものの、金属箔の使用や「10の最大物」に次ぐサイズ、高い抽象性などから、その重要性が指摘されている。
なお、会場では「神殿のための絵画」一覧が掲示されているので、その全貌を俯瞰して見る助けとなるだろう。

