会場では、重要文化財である明治期の写真原板から、文化財写真、静物写真、広告写真、そして現代アーティストの作品までといった、約200点の写真作品が全6章立てで構成されている。
第1章「たんなるモノ」でまず紹介されるのは、モノを撮影することを実験的に思索した大辻清司による物撮りだ。雑誌『アサヒカメラ』の連載「大辻清司実験室」に掲載された作品で、自身のアトリエにあったものが写されている。
また、幕末の写真師・島霞谷(しま・かこく)によって撮影された《鮎》や《頭蓋骨標本写真》、そして川内倫子のシリーズ作品「M/E」を展示。「物撮り」という行為を通じて、とある日常を切り取り鑑賞者に提示する作品群だ。
写真の大きな役割のひとつに「記録」がある。続く第2章では、記録という行為のなかに生まれた表現に焦点を当てている。
明治初期に発生した廃仏毀釈による文化財破壊を重く受け止めた当時の政府は、写真を用いて近畿地方の社寺や文化財に対して「壬申検査」を行い、それらの記録撮影を行った。ここでは、そういった記録の用途に加えて、日本美術の紹介としての役割も担った小川一眞をはじめとする写真師による文化財写真が紹介されている。
文化財写真は記録であるとともに、そこにある時代背景や過去の人々の想いをも写し出すものでもある。それと同義で、古書を美しく撮影することを目的とした潮田登久子(1940〜)による「bibliotheca」シリーズは、その作品から見事に時間の蓄積が立ち現れていると言えるだろう。