展覧会は概ね年代順に構成されており、展示作品は、MoMAやテート、フィラデルフィア美術館など世界中の15の美術館・機関と41の個人コレクションから集まっている。ティナリ館長は、「このような展覧会を実現するのは、美術館にとってもっとも困難なことだ。一つひとつの絵画が非常に特別なものであり、それぞれに大きな価値がある」と話している。
例えば、タイマンスが2003年に初めて中国を訪れた後に制作した《Morning Sun》は、当時の上海の浦東新区にある象徴的な東方明珠塔を中心に描いた作品で、その背景には中国の急速な経済成長と都市化の象徴が表現されている。タイトルが示す通り、中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、経済的に台頭し始めた2000年代初頭の希望に満ちた雰囲気を反映した作品だ。
その約15年後、タイマンスは香港での展覧会のために《Shenzhen》(2019)という絵画を制作。この作品は、タイマンスがYouTubeで見た中国・深センの動画をもとに制作された作品で、技術革新と未来志向を象徴する風景が描かれている。作品には動画の「再生」「巻き戻し」「早送り」のアイコンがそのまま残されており、デジタル時代のイメージのとらえ方に対するタイマンスの批評的視点が表れている。
本展キュレーターのイリーは、これらの作品を通じてタイマンスは「近代中国史のふたつの異なる瞬間を結びつけている」としつつ、「タイマンスの作品は、制作された時代だけでなく、将来どのように受け取られるかという時間軸も内包している」と指摘している。その作品は、一種の時間のコラージュのようなものであり、異なる時間の層を記録する媒体として機能し、観客に歴史や記憶について再考する機会を与えると言える。
さらに、イリーは本展においてとくに注目すべき作品として《Rearview Mirror》(1986)を挙げている。この作品は、車のバックミラーを描いたものであり、本展のタイトル「The Past」を詩的に象徴している。バックミラーに映る風景は過ぎ去った過去であり、車が進む未来へと続くクリーム色の空間が広がっている。この絵画は、動く映像の一瞬を静止させたような作品であり、タイマンスの時間に対する鋭い洞察を示している。
本展の構成についてタイマンスは、「制作プロセスや思考の進化、絵画技法の変化を包括的に理解できるような構成にした。他の展覧会とは異なり、すべてがひとつの空間に収められている点も特徴的だ。そのため、鑑賞者はつねに展示全体を振り返りながら鑑賞することができる」と話している。北京に行く機会があれば、時間と記憶の複雑な層を持ち、歴史と現在、そして未来をつなぐタイマンスの絵画を、ぜひその目で確かめてほしい。
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