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「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ―」レポート。「発酵」をテーマにしたアートで金沢を感じる【4/6ページ】

石引エリア:じょーの箱、福光屋

 金沢城の石垣に使用する石を運んだといわれる直線の道が印象的な石引には、通りに沿って老舗酒蔵・福光屋がある。開発が進むこのエリアで移転せずに醸造を続けるのは、日本三大霊山のひとつ白山の麓に積もった雨雪が、井戸水となってたどり着く場所だから。100年かけて貝殻層などにろ過され、仕込み水として使われるこの井戸水は、蔵のそばで試飲させてもらえる。「加賀鳶」「福正宗」などの日本酒を生み出す、柔らかいのに豊富なミネラルを含む「恵みの百年水」はぜひ味わってほしい。

恵みの百年水は福光屋の蔵のそばにある。提供時間が決まっているので注意

 1972年創業のカレー屋が運営する古い町屋を改装した多目的スペース「じょーの箱」では、ミュージシャンで映像ディレクターのVIDEOTAPEMUSICが、酒蔵の日本酒造りの際に職人たちに歌われてきた労働歌「酛(もと)かき歌」をテーマに映像と音で魅せる。

 金沢でも1フレーズを覚えている人がかろうじて見つかったくらいに消えつつある労働歌は、ストップウォッチのなかった時代に、時間やかき混ぜる回数などを図るために作業に合わせて歌われたものだ。人間とは異なる時間軸で進む発酵は、夜通しの作業でもあり、歌詞には「眠たい、眠たい」と歌うものもあるという。こうした歌を収集し、地域ごとの特徴とともに、蔵によって混ざっていることも見いだした彼は、ひとつの歌に編集し、シンガーソングライターの浮(ブイ)に歌ってもらう。金沢滞在中、深夜のまちを徘徊し撮りためた映像とともに流されるそれは、本来はたくましく、時に卑猥な男の歌が、女性シンガーの声に変わることで、かつて家内で、父や夫、兄たちの歌声として聞いたであろう女性たちの記憶につながり、子守唄のようにも感じられる。VIDEOTAPEMUSICが重ねた時間と経験も合わさって、豊かな視聴体験となるだろう。

じょーの箱の展示風景より、VIDEOTAPEMUSIC 《While I was asleep》。
撮影=池田紀幸

編集部

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