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「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ―」レポート。「発酵」をテーマにしたアートで金沢を感じる

日本の食文化を代表する「発酵」に注目し、アートを通じて五感でまちを感じる「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ―」が金沢21世紀美術館と「発酵ツーリズム金沢実行委員会」の協働で開催中。目には見えない発酵という現象をアーティストたちがどのように表現しているのだろうか?

文=坂本裕子

大手町洋館の展示風景より、遠藤薫《三六〇、六〇、九〇、を(内科室にて)》

発酵文化芸術祭とは

 糀に糠、味噌󠄀に醤油や酢など、日本の深い「うまみ」を構成する発酵食品。金沢にもカブにブリを挟み、糀(こうじ)で漬け込んだ「かぶらずし」やフグの卵巣を糠(ぬか)に漬け込んで解毒した「ふぐのこ」をはじめ、独自の発酵文化が根付き、土地には数百年の歴史を持つ醸造蔵がいまも伝統を受け継いで生産を続けている。そこには技術だけではなく、水や風、自然の産物に恵まれた金沢の土地とそこに生きる人びとの経験や記憶も堆積しているのだ。

 人の手と微生物の活動により熟成する「発酵」のあり方、そこから生み出される深い風味や生活の彩り、その歴史に注目し、まちに残る醸造蔵を舞台に「発酵」をテーマにしたアート作品を提示、新しいまち歩きの体験を通じて石川の文化を感じる芸術祭「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ―」が開催されている。

  「まちに活き、市民とつくる、参画交流型の美術館」を特徴のひとつとして掲げ、市民や産業界との連携から様々な地域型の美術活動を展開してきた金沢21世紀美術館が、開館20周年の企画として、発酵の専門家やこの地の醸造家、観光・町づくりにかかわる企業で構成される「発酵ツーリズム金沢実行委員会」と協働する芸術祭だ。

 総合プロデューサーは、発酵デザイナーとして「見えない発酵菌の働きを、デザインを通して見えるようにする」ことをめざす小倉ヒラク。共同キュレーターに、大学で「発酵メディア研究」グループを主宰し、発酵の概念からテクノロジーや人間と自然の関係性を追求しているドミニク・チェンを迎える。

 「発酵ツーリズムプロジェクト」は、小倉が全国の醸造家や研究者たちを訪ね、それぞれの土地が持つユニークな食、歴史、文化、風土そして暮らしに、発酵の視点から日本の価値を再発見するために立ち上げた。その想いに応じた5エリアの醸造蔵や店舗、建物がインスタレーション会場となる。

金沢21世紀美術館プロジェクト工房の会場入り口

 まずは、金沢21世紀美術館の別館・プロジェクト工房でチェックイン。ダブル表紙のガイドブックがもらえるので、右開きからは展示作品を、左開きからはまち歩きのポイントをチェックしよう。

 「能登半島とも密接にかかわる金沢の食文化は、華やかな面と、民間に受け継がれてきた保存食などの地味だけれど味わい深い面とが織物のように紡がれていると言える。その光と影両方の要素を提示したかった」と語る小倉は、黄色い円や玉のモチーフに発酵菌や「光」を、地のグレーに「影」を象徴する。

 ここでは、加賀能登で生まれた多様な発酵食品の製造者のプロフィールが紹介される。それぞれの成り立ちや北前船などの地形・歴史的背景とともに、においを嗅げるものもあるので、各エリア、気になる発酵食品はマップとともに確認したい。

金沢21世紀美術館プロジェクト工房の展示風景

 中央の輪島塗の椀と膳の展示も注目。これらは今年1月に能登を襲った震災で被害にあった家々から集められ、修復されつつ再利用を待つ什器たちなのだ。加賀を代表する伝統工芸の漆塗もまた、発酵のひとつのかたち。食品にとどまらない発酵の広がりと再生への祈りが感じられるスタートだ。

金沢21世紀美術館プロジェクト工房の展示風景より、能登地震で罹災した輪島塗の椀膳たち

編集部

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