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「発酵文化芸術祭 金沢―みえないものを感じる旅へ―」レポート。「発酵」をテーマにしたアートで金沢を感じる【6/6ページ】

大野エリア:ヤマト醤油味噌󠄀、直源醤油、紺市醤油

 白山山麓からの湧き水、海沿いの湿潤な気候、北前船の交易港という地の利と、醤油づくりの条件がそろった大野地区には、かつて60件以上の醤油醸造業者があり、五大産地ともいわれたエリア。現在でも10数件の醤油蔵が軒を連ね、いまではあまり見られなくなった煙突があちこちにあり、隆盛した「醤油町」の面影を伝える。

 100数年の歴史を持ち、木桶を使用した伝統製法を守りながら、世界にも発酵食品を輸出しているヤマト味噌󠄀醤油では、ドミニク・チェンらのFERMENT MEDIA RESEARCHが、糀蔵に設置された巨大な木桶を「Misobot」にした。ノックすると“味噌󠄀の妖怪”が目を覚まし、味噌󠄀の状態や大野港の歴史など、質問に答えてくれる。蔵内のあちこちに隠れているのは、蔵に存在する菌たちを体現したソフト・ロボットたち。「麹菌」「酵母菌」「乳酸菌」それぞれ醸造の状態を察知して膨らんだりしぼんだりするのがかわいい。

ヤマト醤油味噌󠄀(ヤマト・糀パーク)
ヤマト醤油味噌󠄀糀蔵の展示風景より、FERMENT MEDIA RESEARCH《糀バース》と味噌󠄀の妖怪「Misobot」。木桶や柱にへばりついているのが蔵付きの酵母を表したソフト・ロボット
麹菌を表したソフト・ロボット

 400年前に醤油の醸造技術を紀州から持ち帰ったといわれる創始者の流れをくむ老舗「直源」では、工芸の伝統に現代の技術を取り入れながら新たなプロダクトを提供する工房seccaが、参加型の作品で発酵のプロセスをデザインに置き換える。参加者は、粘土の塊を道具や手を使って自分がよいと思う形に変形できる。その過程も展示され、定期的に粘土を回収し、その時々の形状を3Dスキャン、3Dプリントして会場の棚に展示されていく。複数の手により、制御のない手法で現れる形は、発酵なのか、腐敗に転ぶのか。参加することでその問いが投げかけられる。

直源醤油の展示風景より、secca 《発酵するカタチ》

 明治25年(1892)創業の紺市醤油では、音、泡、放射線、虹、微生物、苔など、物質や現象を「芸術」に読み替えることを試みている三原聡一郎が、蔵の空気をかき混ぜて、その空間の空気を、ひいては見えない微生物を意識させる。製材後にしなりを持つヒバの木3本がゆっくりと回る装置のそばで、樽の醤油の滴が落ちる音を聞きながら、香ばしい醤油の香りに包まれていると時を忘れそう。しなり具合とともに蔵の微生物が付着して変化するヒバも再訪して確認したいところだ。

紺市醤油の展示風景より、三原聡一郎 《it’s in the air(microbiome)》
撮影=池田紀幸

 今回アーティストたちは、自身の足でまちを巡り、人々と対話するなかで会場を定め、作品を創造していったという。それは見えない微生物が作用して、奥深い味を出していく発酵の作用になぞらえられよう。そして巡るわたしたちの旅も、作品に触れ、発酵の存在を感じ、息遣いを聞き、考える契機を得る。これもひとつの発酵作用といえるはずだ。

 すべてを廻るならば、2泊3日はほしいところだが、本芸術祭は、一度チェックインすれば会期中何度でも訪れることができるので、金沢の食とともに作品の変化を楽しみに、日を置いて通うのもよいかもしれない。

 なお、大野エリアではぜひ宝生寿しへ。おまかせメニューでは、その日港で揚がった新鮮な魚で握ってくれるはず。各蔵でもいろいろ購入したくなること必至。店頭での買い物もよいが、重たい製品も多い。チェックイン会場にもショップがあるので帰りがけにこちらで求めるのもよいだろう。

宝生寿し外観
金沢21世紀美術館プロジェクト工房のショップ。こちらは無料で利用できる

編集部

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