東京都が、新たなアートイベントとして「海とつながる。アートをめぐる。―Harmony with Nature―」をスタートさせた。
このイベントは、2040年代に向けて都立公園の機能・価値を向上させる東京都の取り組みの一環として行われるもの。プロデューサーは杉山央(新領域株式会社 ART+TECHプロデューサー)が務める。
今回の会場となるのは、1989年開園の葛西臨海水族園と葛西臨海公園だ。谷口吉生の設計によるガラスドームで広く知られる葛西臨海水族園は、老朽化のため、現在の水族園の隣接地に新たな水族園を整備する計画が進んでおり、28年3月のリニューアルオープンを目指している。いっぽうで現在のガラスドームを含む部分は今後も保存される予定だ。
本イベントでは、「海とつながる」をテーマとして、水族園を象徴するガラスドームを本来よりも強力なミストが包み込み、海とつながる世界を生み出す環境演出を実施する。杉山は、「海や水を感じる内容であり、透明感あるガラス建築の美しさを際立たせるものにしたかった」とその意図を語る。会期中の8月11日〜14日には夜間の特別イベントとして開館時間を延長。開園中に水槽の照明を消し、魚と一緒に夜を迎える特別イベントを期間限定で行う。
いっぽう葛西臨海公園では、「アートをめぐる」をテーマとして、4アーティストが新たに作品を制作した。
蜷川実花 with EiMは、東京湾を見渡せる展望レストハウスである「クリスタルビュー」でインスタレーション《Garden of Sky(空の庭園)》を展開。蜷川はクリスタルビューについて、「思春期の頃から馴染みがあり大好きな建物。生活の中にある大切な場所だった」としつつ、建物から作品を構想したという。建物のファサードは蜷川にとって過去最大となる巨大写真で彩られ、内部には「空間に溶け込むような作品を仕上げた」という、パーツから手づくりした800個ものオブジェが浮かぶ。差し込む太陽光の変化によって、様々な表情を見せる作品だ。
また落合陽一、平子雄一、河瀨直美は、4万本の向日葵が咲くひまわり畑で作品を展開している。
落合は自然と人工物と生成AIによって生み出された新たな映像インスタレーション《リキッドユニバース:向日葵の環世界のコペルニクス的転回》を展示。横幅8メートルのディスプレイにはAIが生成し続ける向日葵が映し出される。デジタルによる質量のない向日葵と、その背後に広がる実際の向日葵が対比される。
平子は3体からなる彫刻《Wooden Wood 73》を展示。これは材木を木彫によって、もとの木のような存在へと戻すシリーズのひとつ。平子は「向日葵は自然の造形であり、そこには介入できない。彫刻を置くことで、自然との対比を提示したい」と語る。平子にとって、国内では初めてとなる屋外展示だ。
河瀨の《隠されたもう一人の私。ひまわり畑での問いかけ》は、体験型の作品。向日葵畑の中に8枚のメッセージが点在しており、それらを鑑賞者が順不同で読むことで自由に解釈し、短編映画のようにストーリーを紡いでいくというものとなっている。