アート・バーゼル香港2019が開幕。塩田千春の巨大作品も登場
アジア最大のアートフェアである「アート・バーゼル香港」が7回目の開幕を迎えた。世界各国から242のギャラリーが参加するこの巨大イベント。ギャラリーブースだけでなく、様々なプログラムが展開される「アート・バーゼル香港2019」のハイライトをお届けする。
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アート・バーゼル香港のアジアにおける重要性は確固たるものになっている。会場に一歩足を踏み入れればそう感じるだろう。
ビクトリア・ハーバーに面した香港コンベンション&エキシビション・センターを舞台に行われているアート・バーゼル香港では、世界35の国と地域から242軒のギャラリーが参加。そのうち、マックス・へツラーやマシュー・マークス、ポーラ・クーパーといった歴史ある「メガギャラリー」が初めて参加している。
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フェアの核となるのは、もちろんギャラリーブースが並ぶ「Galleries(ギャラリーズ)」だ。
世界6都市でスペースを展開するメガギャラリーの代表格、ハウザー&ワースは初日にマーク・ブラッドフォードの《Superman》(2019)を200万ドル(約2億2000万円)で売却。ジャック・ウィッテンのペインティング《The Eleventh Loop (Dedicated To The Memory Of Adrienne Rich)》(2012)も175万ドル(約1億9000万円)で売るなど、好調な数字を記録。
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2日目にはいくつかの作品を展示替えし、元永定正や松谷武判など「具体」の作家を押し出した。いっぽう、もっとも目立つ場所に展示されていた曾梵志(ゼン・ファンジ)の《Untitled》(2017)は、2日目にしてアジア人コレクターが「数百万ドル」で購入したという。
なお、同ギャラリーは香港市内のスペースでフェアに先立ってルイーズ・ブルジョワの個展を開催。初日で作品を完売させたことでも話題となっている。
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いっぽう、昨年上海にもスペースをオープンさせ、アジア進出を加速させているペロタンは展示作品の80パーセントが初日で売れたという。ブースでひときわ目を引くのは、村上隆による巨大な黄金の立体作品。フェアにおける写真スポットのひとつとなっている。なお同ギャラリーで最も高額な作品は、パンダをモチーフにした村上の平面作品《Forest Companions》(2017)で、その価格は280万ドル(約3億円)。
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東京にもスペースを持つファーガス・マカフリーのブースでは、具体の白髪一雄による巨大作品《鬼山》(1991)が来場者の目を引いていた。同作は、白髪の「足跡」が残っているという珍しい作品。4億円という価格設定だが、戦後日本美術のマーケットを牽引する存在としては、決して高いとは言い切れないだろう。
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Diorとのコラボレーションで世界的に注目を集める空山基。その黄金に輝く立体作品で視線を集めていたのがNANZUKAだ。ニューヨークを中心に活動するアーティスト・HAROSHIの作品に行列ができたという同ブース。代表の南塚真史は、「まだアートを買い始めて間もない20~30代の若いコレクターたちが集まってきている」と話す。
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今年初めてアート・バーゼル香港に参加したロンドンのリチャード・ナギーは、昨年没後100年を迎え、あらためて注目が高まっているエゴン・シーレの個展を開催。現代美術が中心のアート・バーゼル香港だが、ギャラリー側は「エゴン・シーレの作品はタイムレスでモダンです。作品をアジアの方々にもっと知ってもらいたい」とセールスに意欲的だ。同ブースでもっとも高額な作品は500万ドル(約5億5000万円)。
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なお「Galleries」の最高額、つまりフェア全体での最高額作品は、Luxembourg & Dayanが出品したピカソの油彩画《肘掛け椅子に座る女l》(1941)で、その額は1900万ドル(約21億円)となっている。こうした作品と不意に出会えるのもアート・バーゼルの楽しみのひとつと言えるだろう。
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メインセクションの「Galleries」だけではなく、アート・バーゼル香港には多種多様なプレゼンテーションを提供することで、来場者を飽きさせない工夫が見られる。
たとえば若手アーティストを個展形式で紹介する「Discoveries(ディスカバリーズ)」。東京のMAHO KUBOTA GALLERYは、ヤドカリの殻をつくり実際に引っ越しをさせる作品《やどかりに『やど』をわたしてみる》などで知られる、AKI INOMATAの個展を開催している。同ギャラリーオーナーの久保田真帆は、初参加となった「Discoveries」について「単独アーティストのプレゼンテーションなので、お客様がアーティストとの会話を楽しめるのが利点ですね。作品に対して集中できる環境だと思います」と語る。
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また同セクションでは、上海のヴァンガード・ギャラリーが見せる、若手のアーティスト・コレクティヴ「Jiū Society」にも注目したい。Jiū Societyは、ニューヨーク、ウォール街にある有名なパブリック・アート《チャージング・ブル》と、深圳市の証券取引所にある牛の彫刻を合体。目が飛び出し、お尻にダイナマイトが刺さった牛には、「中国経済の未来が見えない」という皮肉が込められているという(なお、牛の色は中国人富裕層がスーパーカーを改装する際によく用いる色だとのこと)。このセクションだからこそできるチャレンジングな試みだろう。
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いっぽう、中国の若手アーティストでもっとも勢いがあるひとり、ルー・ヤンは、日本の「キャバクラ」を意識したというド派手なブースを展開。上海ビエンナーレでも異彩を放っていたルー・ヤンは、ここフェア会場でもひときわまばゆい光を放っていた。
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アート・バーゼル香港の会場でなくてならないのが、巨大作品を大通路に展示する「Encounters(エンカウンターズ)」だ。ディレクターのアデリン・ウーイはこのセクションについて、「必ずしも壁に飾られるものだけがラインナップされているのではない、ということをスケールをもって見せたいのです」と語っている。
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今年は12組のアーティストが参加し、うち8つの作品が初公開となった。なかでも注目したいのは、塩田千春の《Where Are We Going?》(2017-18)だ。
ペンで描いたような細いワイヤーと白い羊毛でかたちづくられた船は、まるでそれ自体が雲となってフェア会場に浮かんでいるようだ。塩田はこの作品についてこう語る。「白は純粋さや静けさを象徴しますが、同時に虚無も思い起こさせる。不確かな運命というものに固執する私たちは、行く先を求めて時間という海を旅しています。この船は、夢と希望を運ぶ船なのです」。
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作品を売ることを第一義にしながら、若手作家発掘の場をつくり、SNS映えするような巨大作品の展示も行うという様々な取り組みが、「アート・バーゼル」というブランディングには欠かせない。
アジアのアート関係者やコレクターからアートファンまでが一堂に集うアート・バーゼル香港は、アジアのアート市場がまだまだパワフルだということを証明している。
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