2019.3.13

アート・バーゼル香港開幕直前。ディレクター、アデリン・ウーイに聞く今年の傾向

アジアでもっとも巨大な規模を誇るアートフェア「アート・バーゼル香港」が、3月29日に開幕する。35の国と地域から242のギャラリーが集結するこのフェアを率いるディレクターアジアのアデリン・ウーイに今年の傾向について話を聞いた。

アート・バーゼル香港2018の様子 © Art Basel
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ーーアート・バーゼル香港は今回で7回目の開催を迎えます。今回は世界35の国と地域から242軒のギャラリーが参加予定ということですが、参加ギャラリーの傾向で特筆すべきことがあれば教えてください。

 今年は21軒のギャラリーがアート・バーゼル香港に初参加します。そのなかには、マックス・へツラーやマシュー・マークス、ポーラ・クーパーといった歴史ある「メガギャラリー」が名を連ねており、こういったギャラリーの参加は非常に大きな意味を持ちます。なぜならアジアのギャラリーは(欧米に比較して)歴史が浅く、そういった老舗ギャラリーが参加することで、全体のバランスが取れるからです。

 もしこれが5年前なら、ポーラ・クーパーが参加するなんて考えられなかった。アジアは彼らがフォーカスする地域ではなかったでしょうから。だからアジアが変わったのだと言えますね。彼らにとって興味のある土壌になった。

アート・バーゼル香港2018より、「ハウザー&ワース」のブース © Art Basel

 今回、私自身プレスリリースを読んでいて気づいたことなのですが、新しいアーティストをどんどん紹介するというよりは(例えば日本人作家で言えば)瑛九といった美術館で展示するような作家をフェアでも紹介する、というのがトレンドかもしれません。少し前であれば村上隆や奈良美智といった同じ作家の名前、(あるいは「具体」など)が目立ちましたが、そうではないレイヤーにも手が届いてきたと言えますね。

 アート・バーゼル香港は西洋と東洋のブリッジとなる国際的なフェアなので、これは喜ばしいことです。

アート・バーゼル香港2018より、「Kaikai Kiki Gallery」のブース © Art Basel

ーーアート・バーゼル香港は巨大作品を紹介する「エンカウンターズ」が大きな特徴です。毎回注目を集めるこの部門で、今年は塩田千春やエルムグリーン&ドラッグセットをはじめとする12組の作品が並びますね。この部門がフェアで果たす役割とはなんですか?

 「エンカウンターズ」は難しい部門なんです。楽しいですけどね(笑)。ブースがズラッと並ぶなか、大通りに巨大作品があると気持ちが切り替わりますよね。必ずしも壁に飾られるものだけがラインナップされているのではない、ということをスケールをもって見せたいのです。純粋に感動するには、時としてスケールが必要になります。

アート・バーゼル香港2018より、「エンカウンターズ」で紹介された大巻伸嗣の大作 © Art Basel

ーーしかも8作品は今回が初公開ですね。これらはコミッション・ワークですか?

 いいえ、違います。我々はビエンナーレなどの国際展ではないので、各作品はあくまでギャラリーがバックについて制作されたものです。アート・バーゼル香港をいい機会ととらえ、お披露目することとなりました。

ーーフェアには日本からも代表的なギャラリーが参加しています。日本のアートシーン、あるいはギャラリーの存在感についてどのような感想を抱きますか?

 日本のギャラリーがいないとフェアはつまらなくなってしまいますよ! 例えば東京には、東京画廊+BTAPや日動画廊など歴史あるギャラリーがありますよね。アジアでは、こうした歴史を持つギャラリーというのは日本にしかありません。そういった人々が参加してくれていることはとても意味がある。

 日本のギャラリーのプレゼンテーションは年々クオリティが上がっているように感じます。それにバランスがいいですよね。東京画廊+BTAPがあれば、NANZUKAのような新進のギャラリーもある。良いエコシステムがあるように思えます。

アート・バーゼル香港2018より、「日動画廊」のブース © Art Basel

ーー今年は台湾で新しいアートフェアが開催されました。また秋にはシンガポールでも新たなフェアが開催されます。そのようななかでバーゼル香港の立ち位置に変化はありますか?

 いいえ。それぞれ立場が違いますし、自分のポジションがあると思います。なのでコンペティターではないですね。「アジア」と言ってもいろんなリージョン(地域)があるので、それぞれのフェアにはそれぞれの目的があるのだと思います。

アデリン・ウーイ © Art Basel