神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、2023年より開始した「ドラマティック・シリーズ」において、毎回広報ビジュアルを新進気鋭のクリエーターとともに創作している。6月21日に上演される楽劇『ラインの黄金』では、画家・真田将太朗にオリジナル作品を依頼した。
真田は2000年兵庫県生まれ。東京藝術大学美術学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程在学中。重力や時間の解釈を取り入れた「新しい風景」をテーマとする作風で注目を集め、「Art Olympia」「ベストデビュタント賞」など多数受賞。JR長野駅やJR上野駅で大壁画の常設作品を発表。近年の主な個展には「BETWEEN:Landscape and You」(Tokyo International Gallery、2025)、「Process Landscape」(銀座 蔦屋書店、2024)、「Solo Exhibition」(台湾新光三越、2024)などがある。
これまでの「ドラマティック・シリーズ」では、2023年のオペラ『サロメ』において九千房政光の《世観音菩薩胸像》を偶像崇拝と重ね合わせて使用。続く24年には、日本画家・丁子紅子の作品を、團伊玖磨作曲の歌劇『夕鶴』のイメージとして起用してきた。真田との縁もこの『夕鶴』にさかのぼる。同作において、鶴のツウが部屋で機織りに勤しむ場面を障子絵として表現し、時間とともに揺れ動く心情を描き出したことが今回の起用につながった。

ワーグナーの代表作『ニーベルングの指環』4部作の「序夜」に当たる楽劇『ラインの黄金』は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団による「ドラマティック・シリーズ」第3弾の演目。指揮は音楽監督の沼尻竜典が務め、国内最高峰のキャストを迎えて、一気呵成に約2時間半にわたるワーグナーの全曲演奏が行われる予定だ。
今回ビジュアル制作を担当した真田は、作品について「この物語全体を貫く『うねり』や『せめぎあい』を筆の動きに託した」と語る。渦を巻くようなかたちや、斜めに交差するストロークは、神々、ニーベルング族、巨人たちの欲望や葛藤が複雑に絡み合う様子を表現。さらに、画面の奥行きや重なりによって登場人物たちの関係性の層を視覚化し、絵の中に音楽的な構造や緊張感を取り込むことを意識したという。「視線が迷い、揺れるような風景空間を通して、『ラインの黄金』より始まる壮大な神話の深層を感じてもらえたら」と真田は思いを込めた。
アートと音楽の新たな融合に挑む神奈川フィルハーモニー管弦楽団の試みは、今回もまた大きな注目を集めそうだ。