表現と鑑賞者がきちんと向き合う場に
展示と並ぶ大きな柱であるアーティスト・イン・レジデンスでは、センターからほど近い場所に長期滞在できる施設を確保。アーティストの滞在制作を通して、奈良という歴史豊かな街や、現代における日本の自然や社会を観察し、新たな視座を提示することを目指すという。
さらに鑑賞者の目を養うため、ワークショップやレクチャーなどにも積極的に取り組んでいく姿勢を見せる。カルドネルはその背景についてこう語る。
「アートの世界で作品のつくり手は増えています。いっぽうで、鑑賞者の数は比例して増えていると言えるでしょうか。いま、この時代のアートを未来に残すためにはつくる人とともに見る人が必要。その『キャッチボール』があってこそアートシーンは成立すると思っています。ここは、よき鑑賞者を育む場でもありたいのです」。
2019年のICOM(国際博物館会議)京都大会では、『ハブとしての美術館』がその話題の中心となった。また22年にはミュージアムの新定義が採択され、「倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する」との文言が盛り込まれている。
ミュージアムの新定義
博物館は、有形及び無形の遺産を研究、収集、保存、解釈、展示する、社会のための非営利の常設機関である。博物館は一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む。倫理的かつ専門性をもってコミュニケーションを図り、コミュニティの参加とともに博物館は活動し、教育、愉しみ、省察と知識共有のための様々な経験を提供する。
「しかし本当にそうなっているのでしょうか? 私は家庭の状況で美術館に行く機会のない子供たちにも、現代アートの門戸を開き、その魅力を伝えたいのです。芸術は歴史づくりだと考えています。現代社会と向き合い、そこから発見したズレや気づきを、他の誰もが考えつかない新しい方法で表現をするのがアーティストだとしたら、この場所で、それらの表現のなかから歴史に残すべきものを極める人を育てたい」(カルドネル)。
カルドネルは、今後は奈良県立美術館など既存の美術機関や地元の教育機関とも連携し、MOMENT Contemporary Art Centerを「いまのアートシーンに足りていないもの」を補う場所にしていきたいと意気込みを見せる。
地元を大事にしつつ、奈良という街から新たな時代の現代美術を紡ぐアートハブになる可能性を秘めたMOMENT Contemporary Art Center。その今後に大いに期待したい。