常連欧米画廊の手応え、新規参加画廊の動向は?
ニューヨークの303ギャラリーは、2022年から5回連続で出展している。アート・バーゼル・パリに米国の画廊やコレクターの存在感が増すなか、同画廊のディレクターに話を聞くと、「とくに欧米のコレクターがパリに集まるため、私たちにとって欠かせない市場。年々良くなっている」と笑顔で語った。販売実績は公開していないが、所属作家にはミモザ・エシャールやカティンカ・ボックなどフランスや欧州の人気女性作家もおり、日本人作家のリプレゼントにも関心を示した。
ロンドンのホワイト・キューブは2020年にパリ拠点を開設。近年、大手現代美術画廊が再び集まるマティニョン通りにスペースを構える。今年はジュリー・メレツの作品2点(各785万ドル)をはじめ、エル・アナツイ(200万ドル)、トレイシー・エミン(99万ポンド)、蔡国強(70万ドル)の作品を販売したと発表した。エミンの彫刻は、エッフェル塔を望むトロカデロ広場で展示され、ブースではカルティエ現代美術財団での個展も始まったガーナ出身の作家イブラヒム・マハマの作品も購入できる。

ドイツからは、ケルンを起点にボンやベルリンから国際展開してきたシュプルート・マガースや、マックス・ヘッツラーといった老舗に加え、新しい世代の画廊も存在感を示した。シュプルート・マガースでは、ジョージ・コンドの作品2点(各220万ドル)、ジェニー・ホルツァー/レディ・ピンクの作品(45万ドル)などが売られた。ベルリン発のLars Friedrichは、前年までのエマージェンス部門からメイン部門へ移行し、デュッセルドルフに拠点をもつPetrineと共同ブースを展開した。Petrineは2025年10月にパリにもスペースを開設している。

イスタンブールで設立され、パリにも拠点をもつThe Pillも、前年までのエマージェンス部門からメイン部門へと移った。身体を、時間や他者との接触、経験を通じて変容する場として捉える展示では、アポロニア・ソコルやジェム・オルゲンらの作品を紹介。ボザール卒業後、米国での活動を経て自身の絵画を確立してきたソコルの歩みは、ドキュメンタリー映画『Apolonia, Apolonia』(レア・グロブ監督、2022)で知ったのだが、アーティストが市場の要求や経済的な不安定さに直面する現実を映していた。

日本人作家への注目、アジアと欧州を結ぶ動き
グラン・パレの内外では、日本人作家の作品も注目を集めていた。前回のフェアリポートでも触れた西村有は、昨今、作品価格が急速に上昇している作家のひとりだ。今年、デイヴィッド・ツヴィルナーは西村の絵画を50万ドルで販売したと報告している。昨年のリポートで取り上げたクレーヴクールが販売した《Funny Face》(2024)の価格は7万ユーロだった。ロサンゼルスのカルマは、ベルリン在住の中村翔太の《Untitled》(2026)を2万ドルで販売した。
屋外では、ロンドンのローゼンフェルドが、東京とロンドンを拠点に活動する宮崎啓太の大型彫刻《A Symbiotic Form》(2025)を展示していた。古い自動車から回収した部品と耐水性の和紙を組み合わせた作品で、先週、パリ郊外の元ルノー工場跡地に開館した新しいアートセンター、Le Largeの展示でも問われていた近代革命と人間の関係をめぐる内省も思い返させた。また、ロサンゼルス発のPost Fairが今年初めてパリで開催され、32の参加画廊に、小山登美夫ギャラリー、KAYOKOYUKI、TATSURO KISHIMOTOなどが見られた。アートフェアの「後」を意味するのではなく、米国での会場が元郵便局だったことに由来する。

パリを拠点とするクリストフ・ガイヤールは、新進作家の紹介と、歴史的な作家の再評価を並行して進めている。2027年3月にはバンコクのBangkok Kunsthalle内に新スペースを開設する予定だ。いっぽう、シンガポールで2019年に設立されたCuturiは、東南アジアの新進作家を軸に、アジアと欧州の美術シーンをつなぐ活動を展開。今年3月にパリ、9月にはロンドンに常設拠点を開設した。両画廊とも、今年のアート・バーゼル・パリにメイン部門で出展している。
フェアの関係者の多くは、苦渋の思いで予定を変更していることだろう。マレやマティニョン地区の画廊、ルイ・ヴィトン財団も土曜日の休業を決め、アート・バーゼル・パリのパブリック・プロジェクトとして無料公開されていた屋外作品を、早々に撤去する画廊もある。
昨年末、アート・バーゼルは公式サイトで、フランスで浮上している美術品への課税強化案を取り上げ、画廊主らの懸念を紹介していた(*2)。課税によってコレクターの購入や画廊の活動が縮小すれば、作家の生活や文化機関の存続にも影響が及ぶという主張だ。美術品への課税をめぐる議論は、税負担の公平性にとどまらず、アート市場と作家、文化機関との関係にも及ぶ。週末の抗議行動を前にした早期閉幕は、国際的なアートフェアが都市にもたらす活況の陰で、文化を支える仕組みや、その利益の行き先が問われていることを浮き彫りにした。
*2──Anne-Cécile Sanchez, “Artworks and taxation: the implications of a potential legal change in France,” Art Basel, 2025年11月17日。フランスの2026年予算法をめぐる美術品課税案について、3人の画廊主と税務専門家へのインタビューを通じ、作品購入の減少や画廊活動・雇用への影響、フランスのアート市場の国際競争力への懸念を紹介している。なお、フランスでは美術品の販売にかかる付加価値税(VAT)の軽減税率は5.5パーセント。美術品を富裕税の課税対象に含める案は、最終的な法律には盛り込まれなかった。https://www.artbasel.com/stories/france-artworks-and-taxation-legal-change-market-obadia-prazan-tornabuoni-vassy?lang=en
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