コロナ禍においては海外渡航の制限により、日本国内で新たにコレクションを始める若い購買層が増加し、マーケットは一時的なブームを迎えた。しかし、国際移動が再開し、また2023年後半から世界的な経済状況が厳しさを増すなかで、「ギャラリーやアーティストの淘汰が進んでいる」と同フェアのマネージング・ディレクター北島輝一は語る。
こうした状況を踏まえ、今年のフェアでは一部のギャラリーが作品のサイズを抑え、より手に取りやすい価格帯の作品を揃えるなど、慎重な戦略を採用している。例えば、小山登美夫ギャラリーは23名のアーティストの小型作品を中心に紹介し、30万円以下の作品を多く取り揃えた。VIPプレビュー初日には、工藤麻紀子による約500万円の絵画を含む複数の作品が売約された。

いっぽうで、新たな顧客層を開拓するために、まだ広く知られていないアーティストを打ち出す動きもあった。Kaikai Kiki Galleryは、Mr.やMADSAKIといった売れ筋のアーティストではなく、女性作家・坂知夏の個展を開催。坂は2000年代頃に活動を開始したが、出産などのライフイベントを経て、長らく制作を中断していた。本展は彼女にとって復帰の場となり、会期中はブースでライブペインティングも披露している。
近年、日本のアートマーケットでは、現代美術と工芸の顧客層が接近してきていると言われる。今年のフェアでも、工芸と現代美術を並列して展示するギャラリーが増えたことが印象的だった。例えば、KOSAKU KANECHIKAは絵画や写真のほか、桑田卓郎と三輪休雪の陶芸作品を展示。ギャラリー代表の金近幸作は「百貨店や陶芸のギャラリーで購入されてきた方が、現代美術のセクションに三輪さんの作品があることで、ブースに立ち寄ることもある」と話している。

また、同フェアについて金近はこう語る。「アートフェア東京のような場では、普段ギャラリーに来ない層と直接つながれる貴重な機会もある。国内のコレクター層を広げる意味でも、有益なフェアだと考えています」。