日本最大のアートフェアとして歴史を重ねてきた「アートフェア東京」。昨年のアートフェア東京2020は新型コロナウイルスの影響を受けて開催が中止となったが、今年はウイルス対策を万全にしたうえで、2年ぶり、15回目の開催を実現させた。会期は3月21日まで。
会場となるのは東京・有楽町の東京国際フォーラム。ギャラリーのブースが集まる地下2階ホールEを使った「Galleries」では、南側半分が現代美術ギャラリー、北側半分が古美術や工芸系のギャラリーを中心に構成されている。
現代美術ギャラリーのなかでも、とくに広いブースを構えて目立っていたのが、MAKI Galleryとgallery UGだ。
MAKI Galleryは昨年9月に東京・天王洲のTERRADA Art Complexにスペースをオープン。続いて新たに誕生したTERRADA Art Complex Ⅱにもギャラリーを構えるなど、個々数年もっとも勢いを感じさせるギャラリーのひとつだ。ブースで目を引いたのが、ルーマニア出身の作家、マリウス・ブルチーアの横幅が5メートルを超える大型絵画。作家の出身地が抱える共産圏時代の痕跡をベースに、アメリカ西海岸の自由な空気が融合したその作風は、見るものに鮮烈な印象を与えていた。また、ほかにも鍵岡リグレ アンヌや上條晋といった作家の作品が展示されており、海外を拠点に活動する作家を国内に紹介したいというギャラリーの姿勢が感じられた。
gallery UGの展示はふたつのブースにわたって展開され、双方を合わせると今回のフェアでは最大のスペースとなった。ブースでは同ギャラリーの看板作家とも言うべき野原邦彦が、木彫の立体作品から、平面のドローイング、さらには工房を再現したような展示を実施。ギャラリーが育ててきたひとりの作家の全体像を多くの人に見てもらおうという気概が感じられた。
昨今のアートマーケットで高い人気を誇るKYNEやロッカクアヤコ、花井祐介といった作家を取り扱うGALLERY TARGETは、大滝詠一や杉山清貴のレコードジャケットで知られる永井博の作品を出展。プールサイドを描いた作品群は、昨今のシティ・ポップブームと相まって、コレクターの食指を動かしそうだ。
昨年10月に開催されたオンラインオークション「SBI Art Auction Live Stream」で、100号のアクリルペイント作品が予想落札価格100〜150万円に対して4400万円で落札されて以来、多くのコレクターの注目を集める作家となったTIDE。オークションと同時期にTIDEの個展を開催していた東京・原宿のGALLERY COMMONは、今回のフェアでTIDEによる猫をモチーフとした7点の作品を展示し、注目を集めていた。
大型のブースを用意したKOTARO NUKAGAでは、新宿駅前のパブリック・アートの制作などでも注目を集める松山智一の作品が、通路を行く来場者の目を引いていた。また、今年になって取り扱いを開始した平子雄一も、絵画からドローイングまで様々な形態の絵画を展示。近年、多くのコレクターに支持される作家のアイコニックな作品が顔を揃えた。
小山登美夫ギャラリーでは、三宅信太郎の新シリーズ「ファウンテン・オブ・ファウナ・アンド・フローラ」を紹介。三宅がアトリエを整理しているときに発見した、20年前のドローイングから生まれたというこのシリーズは、三宅をもう一度制作の原点に立ち返らせたという。壁面に並んだ動物や植物の自由でにぎやかな姿が楽しげだ。
シュウゴアーツのグループ展示のなかでも目を引いたのは、横幅が3.5メートルを超える近藤亜樹の大型絵画《HOUSE》(2017)だ。自身の結婚を機に描いたという同作の明るい色彩は、ブースのアイコンとなっていた。また、継続的にFacebookに投稿してきたフォトドキュメンタリーにより制作したリー・キットの写真作品も、水彩紙への印画によってつくられるやわらかな空気感が見る者に新鮮な印象を与えている。
MAHO KUBOTA GALLERYのブース入口では、現在、渋谷駅の駅前エレベーターでパブリック・アート《Night City》を展開しているジュリアン・オピーの絵画が人々を迎えていた。また、WAITING ROOMは先週まで個展を開催していた高田冬彦の映像作品と川内理香子の絵画作品を並べ、人間の身体についての想像を喚起していた。
「アート・バーゼル香港2021」が延期されたことで、例年は香港への出展を優先していた国内ギャラリーがアートフェア東京に参加する例もあった。こうしたギャラリーのひとつでもあるANOMALYは、今回のフェア随一と言っても良い、柳幸典によるメッセージ性の強い展示を実施。ウルトラマンのソフビ人形と鏡によって構成された《Banzai Corner》と、着色した砂で制作した国旗に蟻が巣をつくる「Ant Farm」シリーズの組み合わせによって、日の丸の持つ歴史や意味の思索を喚起するこの展示は、現代美術が提示するコンセプトの強さを改めて意識させるものと言えるだろう。
国際フォーラムを南北に貫く通路の一部ともなっている地下1階には、「Crossing」エリアと「Projects」エリアが設置されている。このエリアは、2019年にはチケットがなくとも通路を通る人々が各ブースに気軽に立ち寄って作品を見ることができたが、新型コロナウイルス対策で入場者や入場人数を把握するため、今回はクローズドスペースとなった。
「Crossing」エリアでは、百貨店のギャラリーや公益財団法人ポーラ美術振興財団や地方の工芸団体、アートジュエリーのブースなどが参加。いっぽうの「Projects」エリアでは、小型の定型ブースでコマーシャルギャラリーや美術商がブースを構える。
「Projects」エリアの出展ギャラリーからは、MA2 Galleryの袴田京太郎の個展を紹介したい。昨年の緊急事態宣言下、多くのギャラリーが自粛を余儀なくされて休廊するなか、MA2 Galleryは袴田の提案により、通りに面したギャラリースペースに24時間灯りをともし、窓から覗けるかたちでの展示を開催。MA2 Galleryのブースでは、このときに展示されていたものと同じシリーズの、アクリル板を重ね合わせた人型作品を間近で見ることができる。
アートマーケットが新型コロナウイルスによる様々な影響を受けた2020年。アートフェア東京2021は、その1年を乗り越えたギャラリーが、それぞれのコンセプトを掲げてプレゼンテーションを行う場でもある。ポスト・コロナ時代の国内のアートマーケットを各ギャラリーがどのようにかたちづくろうとしているのか、フェアの展示から探ってみてはいかがだろうか。