昨年、新型コロナウイルスの影響で2年ぶりに開催された「アートフェア東京2021」では、来場人数が前回より4割ほど減少したにもかかわらず、過去最高の売上高を記録した。また、コロナ禍による多くの制限にもかかわらず、多くの現代美術ギャラリーやアートオークションも好調な売上を示しており、国内の現代美術のマーケットはここ2年間で大きな盛り上がりを見せている。
そんななか、コロナ禍以来2回目の開催となる「アートフェア東京 2022」が、3月10日に東京・有楽町の東京国際フォーラムで開幕した。今年のフェアには、国内外から約150のギャラリーが参加。加えて、フェア会期中の12日にSBIアートオークションによる企画オークションが東京国際フォーラムで初めて実施され、「日比谷OKUROJIアートフェア」やNFTアートフェア「Meta Fair #01」などのサテライトフェアも同時期に徒歩圏内の会場で開催されるなど、これまでにない「面的な」盛り上がりを見せる。
フェア開幕前から多くのギャラリーがブースを完売し、コレクターがウェイティングリストに名を連ねていることも囁かれている。「アートバブル」という言葉がよく聞かれるようになっているなか、今年のフェアの実態はどのようなものなのか、会場からレポートする。
メインフロアーで大型のブースを構えたKOTARO NUKAGAは、松山智一、平子雄一をはじめ6名のアーティストの作品を展示。とくに松⼭智一の代表的なシリーズ「Fictional Landscape」からの新作である《People With People》は、作家がこれまで日本で発表した作品のなかで最大の規模を誇るもので、会場で大きな存在感を放つ。
ギャラリーオーナーの額賀古太郎によると、同作は非売品であり、その他の展示作品の価格帯は約30万円〜700万円。初日の正午までに、約20点の作品のほとんどが完売しているという。
TARO NASUのブースでは、榎本耕一、サイモン・フジワラ、ライアン・ガンダー、ダグラス・ゴードン、ジョナサン・モンク、ミカ・タジマの作品を展示。ディレクターの細井眞子は、「統一したコンセプトはそれほど強く意識していない」としながら、「ガラスや鏡、そしてサイモン・フジワラの『Who』シリーズのように、物理的な意味でも精神的な意味でも自分の内面がリフレクションするきっかけになるような作品を集めた」と話す。
作品の価格帯は約140万円〜2200万円で、フェア開幕前にすでに2点はリザーブが入ったという。国内マーケットの活況について細井は、「いいことだと思うが、同時にガラパゴス化が加速しているようにも感じている」と述べている。「アートは、国境や言葉を越えてユニバーサルに人と人をつなぐもの」だという思いから、今回は日本と海外の架け橋のようなアーティストを集めたという。
ペロタンは、フランス人アーティストであるジャン=フィリップ・デロームの個展を開催。下絵を描かずに被写体を直接観察して一気に仕上げた近作のポートレイトや夜景のペインティングが紹介されている。作品の価格は最大2万6000ユーロ(約330万円)で、開幕時には半分近くの作品がキープになったという。
2019年から3年ぶりの出展について、ペロタン東京のディレクター・波多野うららは次のように話している。「コロナでなかなか海外に出入りするのが難しくなってきているので、国内とのコネクションをもう1度つくりたい。ぜひ日本のコレクターの方に来ていただきたい」。
今年2回目の出展となるGALLERY COMMONは、Ichi Tashiro、西祐佳里、Shohei Takasaki、Wakuの4名の所属作家に加え、森山大道、Felipe Pantone、Ikeuchi Hirotoといった計7名のアーティストの作品を展示。ギャラリーのアシスタントディレクターであるエリカ・ドレスクラーは「かなり順調に売れている」としつつ、初日の正午まではブースの約半分が売却済みまたはリザーブになったという。
マーケットが盛り上がるなか、ドレスクラーは「私たちのギャラリーで注意深く行おうとしていることは、たんにお金を得るだけでなく、アーティストを長生きさせるような方法で育てていくことだ」としつつ、「いまだけのトレンディなアーティストにするのではなく、本当に生涯のアーティストにすること、そして海外での展覧会を実現し、美術館などに収蔵されるようにすることを目指している」と述べている。
香港に本拠地を置き、東京・原宿にもスペースを持つJPS GALLERYは、Afa Annfa、August Vilella、B. Wingなど7名のアーティストを紹介。価格が約50万円〜500万円の作品は、開幕前にほぼ完売しているという。ギャラリーディレクターのサム・ユーは、「当ギャラリーの顧客の約7割は海外の顧客なので、コロナの影響で実際に来日することができないが、SNSやPDFなどを通して作品を買っている」と話している。
また日本の入国制限により、一部の海外ギャラリーはスタッフを派遣せず、現地のヘルパーを雇う形式でフェアに参加している。ロサンゼルス、香港、バンコク、パリに拠点を持つギャラリーOVER THE INFLUENCEは、Azuki Furuya、Dani Tull、Gongkanなど5名の作品を紹介し、フェア開幕前にすでに半分以上の作品が売却。台北のEACH MODERNも、オープニング時点で鈴木ヒラクの絵画を含む2点の作品が売約済みだという。
今年初めて出展したギャラリーのなか、東京・天王洲にあるTokyo International Galleryは画家の友沢こたおの個展を開催。昨年12月に「SCOPE MIAMI BEACH」アートフェアにも作品を展示した友沢は、その代表的なモチーフである「スライム」を赤ん坊や女性の顔に被った様子を描いた新作を発表。ギャラリーディレクターの谷本弥生によると、昨年マイアミで彼女の作品を見た顧客からも今回の作品に対して非常に反応があり、作品はすべてオープニング前に完売したという。
アートフェア東京について、出展ギャラリーからは「もうすこし質を上げてほしい」「運営の面でもっと改善してほしい」「より多くの人に見てほしい」などの意見もある。実際、若手作家を個展形式で紹介する「Peojects」セクションは展示ブースも狭く、天井も低いスペースでの展示となっており、見やすい環境とは言い難い。有料エリアとしては、こうした若手作家たちのプレゼンテーションの質をもうワンランク上げるべきだろう。
隣国・韓国のソウルでは今年、世界レベルのフェア「FRIEZE」が初めて開催される。またアート・バーゼル香港も依然アジア圏では大きな存在だ。京都では海外ギャラリーとコラボレーションした新たなフェア「Art Collaboration Kyoto」が昨年、強いインパクトを与えた。
そうしたなか、日本のアートフェアを牽引するアートフェア東京には、まだ伸びしろがあると言っても過言ではない。好調な売上とともに、さらにハイエンドなフェアを目指してもうワンステップ上がる時期なのかもしれない。