10月14日まで愛知県各所で開催中のあいちトリエンナーレ2019。その一展示「表現の不自由展・その後」が抗議や脅迫により8月3日かぎりで展示中止となったことを受け、これまでに様々なアーティストや団体が声明を発表してきた。そして今回新たに、アーティストら芸術生産に従事する人々を中心として、ジェンダー平等の観点からの声明が発表され、オンライン署名ツールでの賛同者を募っている(全文は本記事末尾に掲載)。
声明のなかでは、トリエンナーレ事務局に寄せられた多くの抗議や脅迫の対象の主なものひとつがキム・ソギョン、キム・ウンソンによる『平和の少女像』であったことを指摘。慰安婦制度下における過酷な経験と、その後に強いられた沈黙への告発が出発点となった本作は、「反日プロパガンダのためではなく、被害者女性の類稀なる勇気をたたえ、彼女らの深い傷を公に認知し、市民に平和について考えることを奨励するという意図のもとに制作されたと私たちはとらえています」として、その本質には女性の人権問題があると訴える。
そして、「その作品に対し、作品批評という枠を超え、誤った認識に基づく抗議、憎しみを煽るヘイトスピーチや一部の政治家たちによる不公正で脅迫めいた圧力が起きているこの事態は、女性に対する差別がこの社会において今なお根強く揺るぎないことの証明にほかならず、今回のトリエンナーレが掲げる『ジェンダー平等』に真っ向から反することは言うまでもありません」と主張。
現在の状況を受け入れることは「すべてのジェンダー、ひいては社会的弱者に対する人権侵害に加担すること」だとして、「表現の不自由展・その後」と展示室の閉鎖や一部変更を余儀なくされた複数の作家たちを含む、トリエンナーレの自律性をもった完全な回復を求めている。
また、現在展示中止をしている作家の多くが女性であり、参加アーティストの数における「ジェンダー平等」が崩れている事実に対してもこの声明は連動しているという。
9月5日時点での本声明への賛同者は231名。そのなかには「表現の不自由展・その後」実行委員会メンバーのほか、《平和の少女像》作者のキム・ソギョン、キム・ウンソンらも含まれている。
表現の不自由展・その後の中止に対する「ジェンダー平等」としての応答 「表現の不自由展・その後」が中止に追い込まれたことについて、「あいちトリエンナーレ2019」が掲げる重要な指針である『ジェンダー平等』の視点から芸術生産に従事する立場としての意見を述べます。 今回トリエンナーレ事務局に寄せられた多数の抗議や脅迫の対象の、主なもののひとつがキム・ソギョン、キム・ウンソンによる『平和の少女像』であり、この作品は1930年以降から太平洋戦争まで存在した旧日本陸軍、海軍による「慰安婦」制度下における過酷な経験と、その後に強いられた沈黙への告発が出発点となっています。政治問題として扱われることの多いこの問題ですが、本質は女性の人権問題であり、『平和の少女像』も反日プロパガンダのためではなく、被害者女性の類稀なる勇気をたたえ、彼女らの深い傷を公に認知し、市民に平和について考えることを奨励するという意図のもとに制作されたと私たちは捉えています。その作品に対し、作品批評という枠を超え、誤った認識に基づく抗議、憎しみを煽るヘイトスピーチや一部の政治家たちによる不公正で脅迫めいた圧力が起きているこの事態は、女性に対する差別がこの社会において今なお根強く揺るぎないことの証明にほかならず、今回のトリエンナーレが掲げる『ジェンダー平等』に真っ向から反することは言うまでもありません。 また、「慰安婦」制度がうまれた時代から時を経てなお、現在も社会のあらゆる場面で性差による差別は顕然と残っています。その性差別はもちろん男性を対象にしたものも含まれます。そのような状況を受け入れることは、すべてのジェンダー、ひいては社会的弱者に対する人権侵害に加担することです。 これらのことに対して、私たちはいかなる名目でも、被害者の尊厳を傷つける性差別を始めとするあらゆる差別に強く反対します。 今回、トリエンナーレにおいて、作品を通してなされるはずだった議論の機会を奪った暴力が、将来、同様にこの加害の歴史そのものをなかったこととするために利用されるのではないかという強い危惧を抱きます。こうした現状におかれてもなお、私たちは、そのような抑圧的な力に対する抵抗として、過去と現在、そして未来における芸術の創造力、そして人々が持つ他者への共感や愛情の力を信じ、「表現の不自由展・その後」と展示室の閉鎖や一部変更を余儀なくされた複数の作家たちを含むトリエンナーレの自律性をもった完全な回復を求めます。