「あいちトリエンナーレ2019」の一企画である「表現の不自由展・その後」の展示中止を受け、芸術祭からも抗議の声が上がった。
「あいちトリエンナーレ2019『表現の不自由展・その後』の展示中止に対する抗議声明」を公表したのは、2008年から続く芸術祭「引込線」の実行委員会。
「引込線」は、2008年の「所沢ビエンナーレ・プレ美術展 -引込線-」から6回の開催を数える芸術祭で、運営主体が美術家や批評家などで構成されていることが特徴。一般的な美術展と異なり統一的なテーマやディレクションはなく、展覧会と書籍刊行を軸にしており、美術家と批評家の協働による表現の場として開かれてきた。今年からは名称を「引込線/放射線」と改めている。
今回の声明では、「あいちトリエンナーレ2019」における「表現の不自由展・その後」の展示中止に対し、「芸術活動に携わる者として、また芸術祭開催に取組む者として、この出来事を芸術表現の自由を脅かす深刻な危機と捉え、表現への不適切な政治的介入と脅迫行動に強く抗議します」としており、「芸術とはかならずしも万人にとって価値ある作品を提示する活動ではありません。むしろ現代芸術の大きな役割のひとつは、社会的に共有された意味や価値を批評的に検証することにあります」と主張。
「政治的介入や脅迫に抑圧されることなく、自由な芸術活動が探求される公共の場を求めます」としている。
〈あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」の展示中止に対する抗議声明〉 あいちトリエンナーレ2019の一部である「表現の不自由展・その後」展が匿名の脅迫や政治家の介入によって中止に追い込まれました。 私たち引込線2019実行委員会は芸術活動に携わる者として、また芸術祭開催に取組む者として、この出来事を芸術表現の自由を脅かす深刻な危機と捉え、表現への不適切な政治的介入と脅迫行動に強く抗議します。そして、あいちトリエンナーレの関係者及び観客の安全が確保された上で、一方的に展示の中断を余儀なくされた「表現の不自由展・その後」の会期中の展示再開の可能性について、あいちトリエンナーレ主催者と「表現の不自由展・その後」実行委員会、及び出展者の間で柔軟かつ建設的な議論を通し、展示再開に向け尽力されることを望みます。 多様な表現活動の存在は、民主主義が正常に機能するために欠かすことの出来ない基盤です。しかし歴史を振り返れば、権力者が対立する意見を封じ込めようとしたり、共同体の多数派が少数派に特定の価値観を強要しようとする傾向が常に存在することがわかります。それだけに表現の自由という理念は慎重に守っていかねばなりません。 芸術とはかならずしも万人にとって価値ある作品を提示する活動ではありません。むしろ現代芸術の大きな役割のひとつは、社会的に共有された意味や価値を批評的に検証することにあります。物神化した価値を解体し、固定化した物と意味の結びつきを解きほぐし、意味や価値観の一元化を退けることは芸術の大きな役割なのです。文化の豊かさとは価値観や意味の多様性にこそあるからです。芸術を道徳の中に閉じ込めようとしたり、表現にタブーの領域を作り出したりすることは、芸術活動を萎縮させ、文化の貧しさをもたらすことに繋がると考えます。 私たちは政治的介入や脅迫に抑圧されることなく、自由な芸術活動が探求される公共の場を求めます。 引込線2019実行委員会 2019年8月25日