「あいちトリエンナーレ2019」で展示が中止された「表現の不自由展・その後」について、緊急シンポジウムが東京の文京区民センターで8月22日に行われた。
本シンポジウムの開催背景には、展示中止が「表現の不自由展・その後」出品作家に知らされず決定されたことにあると主催の8.22実行員会は説明。出品作家の声を届けることを目的に、シンポジウムは進行された。
シンポジウムには、出品作家のなかから安世鴻(アン・セホン)、大浦信行、中垣克久、朝倉優子(マネキンフラッシュモブ)、武内暁(「九条俳句」市民応援団)が登壇。
中国に置き去りにされた朝鮮人の日本軍「慰安婦」被害者たちを記録した写真を展示した安世鴻は、「あいちトリエンナーレで起こっている事態は(自身の個展が新宿ニコンサロンで検閲された)7年前より悪くなっているのではないか。民主主義の退行を感じる」とコメント。「被害を被ったのはアーティストだけではない。みんなで連帯して展示再開を願うとともに、知る権利を守っていきたい」と、展示中止になった作品を知る権利が侵害されていると主張した。
いっぽう、「昭和天皇の肖像を燃やした映像」という文脈で大きな議論を呼んだ大浦信行は、自身の作品について「20分全部見てもらえれば、天皇批判ではないことはわかると思う。ただ実際は(肖像画)燃えているところだけが伝わっていった。非常に辛い感じはある」と語った。
「表現の不自由展・その後」では、大浦が80年代に制作した版画作品《遠近を抱えて》とともに、新作の映像作品《遠近を抱えてPartII》が展示。《遠近を抱えてPartII》の制作背景には、1986年に昭和天皇の肖像をコラージュした《遠近を抱えて》が富山県立近代美術館主催「86富山の美術」で展示された後、作品売却と図録470冊すべてが焼却されたことがあるという。《遠近を抱えてPartII》には、この《遠近を抱えて》を燃やすシーンが映像の一部として挿入されており、「観る者に『遠近を抱える』ことの意味をあらためて問うものになっている」(「表現の不自由展・その後」公式サイトより)。
大浦はこの日、《遠近を抱えて》についても言及し、その制作意図を「自画像をつくろうと思った。自分のなかに湧き上がってくるだろうイメージを外へ外へ拡散させていく。いっぽう天皇の、中心に向かって収れんされていくイメージを重ね合わせ、自画像をつくろうと思った」と説明。映像については次のように語った。
「33年経った今日、昭和天皇が燃えている映像というかたちで、ひとつの表現の完結を図ったわけです。ひとつの主題がずっと自分のなかで水面下でありながら、やっと浮上してきた。それを映像として表現した」。
展示室の中央で、かまくら型の外壁に憲法9条尊重、靖国神社参拝批判、安倍政権の右傾化への警鐘などの言葉を掲げた《時代(とき)の肖像》を展示した中垣克久は「表現の不自由のみにスポットを当てて、美術を無視した。作品へのリスペクトがなく、作家不在」と表現の不自由展・その後の枠組みについて批判。
また《平和の少女像》については「工芸だと理解している。用の美。目的を持ってつくられたもので、トリエンナーレに並べることに不快感を持った人々がいたことは理解できる」と主張しながら、「(《平和の少女像について》)事前に説明し、目的を明瞭にしさえすれば河村名古屋市長や菅官房長官も口を挟むことはできなかったのではないか」と指摘した。加えて、展示内容の発表が事前になされなかったことについては「作品はおろか作家名も伏せたまま初日を迎えたことに抗議を続けたが、受け入れられなかった」と明かした。
なおこの日のシンポジウムでは、かつて《平和の少女像》のブロンズを展示した、原爆の図丸木美術館学芸員・岡村幸宣と、「表現の不自由展・その後」実行員会のアライヒロユキもマイクを握った。
岡村は2012年に行われた「今日の反核反戦展2012」で《平和の少女像》のブロンズを展示した際、「攻撃の対象になりうるという認識はあった。怖い気持ちがまったくなかったわけではなかった」と当時の心境を明かしつつ、会期中に来館者からは反対意見がなかったことを説明。《平和の少女像》について「繊細で複雑な文脈を読み解こうとせず、単純に記号化がされ議論が暴走していくことに危惧を感じる」としながら次のように語った。
「表現の自由の問題ではあるがそれだけではなく、振り返りたくない歴史を直視しない空気が蔓延している。世界的にはボーダレスの時代のなか、自らボーダーをつくり、外側とズレを生じさせているのがいまの(日本の)状況。(「表現の不自由展・その後」の展示中止は)そうした社会のなかで、起こるべくして起こったのではないかと強く感じている」。
またアライは現状について「あいちトリエンナーレ実行委員会と共同歩調を保って展示再開に向けて努力している」と説明。「自由を勝ち取りたい」と展示再開への意欲をあらためて語った。