音楽家/文筆家の寺尾紗穂が感じた、リナ・バネルジー「"You made me leave home...」展(エスパス ルイ・ヴィトン東京)に宿る「移動」の記憶【2/2ページ】

この世界のあるがまま

リナ・バネルジー《Shareena, she chose, lost all her noodles(...)》(2023) Courtesy of the artist and Perrotin *1

 2026年の新作絵画シリーズでバネルジーは、1900年以前のインド美術への深い造詣をもとに、南アジアの素材やモチーフ、図像を融合させ、ヒンドゥー教の女神を想起させる女性像を色彩豊かに描き出している。画材は水彩画がメインだが、時にはコーヒーで描くこともある。そして本展のメインビジュアルに使用された2023年の作品《Shareena, she chose, lost all her noodles(…)》に描かれた女性の名前は「Shareena(シャリーナ)」。絵画にはすべて異なる名前をもつ女性が描かれ、どの作品にも長く詩的なタイトルが付いている。

リナ・バネルジー《The real deal, authenticity(…)》(2025) Courtesy of the artist and Perrotin *2

 「読んでみると、彼女なりの物語を詰め込んでいるのだろうなという気がします。私は同化への抵抗の意思を感じさせる《The real deal, authenticity(…)》(2026)に目が留まりました。女性の頭部あたりが赤っぽい雲のようなものに覆われているのだけど、彼女からも何か美しい色の層のような新しいものが流れ出ていて、厚い雲に覆われない主体性を感じさせる。リナさんのオブジェクトの作品に、目の造形が乳房のようにも見えるなと思うものがあったのですが、彼女の生み出す女性像からは、性をためらわずに直接的に表現するような感覚が受け取れます。インドの神話にはたくさん女神がいるようですね。南洋の島々などもまた多くが母系社会で、女性性が強いというのが太古の社会の主要な在り方のひとつだと思うので、そういったものとの重なりも感じます」。

「リナさんの作品は、いろいろなものが溶け合い、別の土地に根付いていくことを表していて、ある意味で多様性の象徴のようですよね」

 バネルジーの故郷であるインドは、200年以上の長きにわたりイギリスの植民地支配を受けてきた。バネルジーが紡ぐ物語は、歴史のなかで人や物が移動する過程に存在した、搾取と繁栄、暴力と美しさ、喪失と生成といった複雑な多面性を、この世界のあるがままとして提示している。支配の歴史や、独立した後も残る様々な影響について、寺尾はどのように見ているのだろうか。

エスパス ルイ・ヴィトン東京での展示風景(2026) Courtesy of the artist and Perrotin. Photo by Jérémie Souteyrat / Louis Vuitton

 「文化はそもそも変わり続けていくもので、固定されたものではないと思います。この展示を見て思い出したのは、パラオに日本文化が色濃く残っているということです。日本が植民地支配をしていたことが理由ですが、調味料とか、司法の用語とか、桃太郎の歌とか、文化が端々に残っている。もちろん、日本が言葉や文化を奪った側面は重要です。でもそのうえで、私たちは何が正しいか一面的に結論づけたり判断したりしがちであることも覚えておかなくてはならないと思います。そこで暮らしている人がいま馴染んでいるものや選んできたもの、その場所で生きている人にしか本当には知りえないことがある。だからアカデミズムの導く答えと、そこで生きる人の声と、どちらか一方からしか言及しないというのは、バランスが悪いことなのだろうなとつねづね思います。そして作家もまた多様であり、重たいものを重たいものとして出すことが向いている人もいれば、リナさんのように、彼女がもつポップさや力強さで表現していく役割が合っている人もいる。なによりディアスポラの当事者のひとりとして、リナさんが自身の個性でもって発信すること自体にすごく意味があると感じる展示でした」。

*1──リナ・バネルジー《Shareena, she chose, lost all her noodles explorer of better beauty in other people poodles. Caught hair in parts like runaway wigs and easter egg washed head with in and ribbons redfooled nature and her suiter to read her as different》(2023) Courtesy of the artist and Perrotin
*2──リナ・バネルジー《The real deal, authenticity does not kneel but folds in playful resilience, unyielding to assimilation always misbehaving and while winds of appropriation threaten she remains first, make me into individual not peripheral》(2023) Courtesy of the artist and Perrotin

編集部

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