「国際彫刻ビエンナーレ台湾 麗宝大賞」とは?
彫刻作品の国際コンペティション「国際彫刻ビエンナーレ台湾 麗宝大賞 LIH PAO INTERNATIONAL SCULPTURE BIENNIAL AWARDS」(以下、リーパオ賞)。このリーパオ賞を2011年に立ち上げたのは、建設業を中心に、ホテルやレジャー事業、化学や医学などの分野へと多角的に展開する麗宝グループを母体とする麗宝文化芸術財団だ。その目的は、国際的な文化交流やコラボレーションによってアーティストの創造力を高め、建築空間に彫刻をシームレスに取り込み、さらには、地域に暮らす人々が住空間におけるダイナミズムを分かち合うこととされている。
リーパオ賞の第6回までは、若手の登竜門となることを目指しており、年齢などの条件が定められていた。しかし、前回より18歳以上であれば国籍を問わず誰でも応募することが可能になった。第4回から審査員を務める彫刻家で東京藝術大学名誉教授の伊藤隆道は「ベテランの作家も応募するようになり、レベルが格段に上がった」と、前回の印象を語る。
今回の審査過程は次の通り。募集期間は2026年5月7日から9月30日(台湾時間)まで、一次審査は写真と書類で評価される。一次審査を通過した10名は、最終審査のための作品制作を実施。およそ9ヶ月後の2027年9月に、実際の作品を前にした現地での最終審査を経て受賞者が決定。金賞には4万5000ドル(約717万円)が授与され、賞金総額は16万ドル(約2400万円)に上る。9月に授賞式、10月に、最終審査に残った10点が一堂に会する展示が行われる。
受賞に際して、文化創生への寄与を目指す麗宝文化芸術財団の支援のもとで制作と展示に取り組むことで、表現者としての視野も広がるだろう。リーパオ賞にはどのような魅力があり、審査を通していかなる成長ができるのか。審査員の伊藤と、第7回の金賞受賞者である本郷芳哉、銅賞受賞者の四方謙一に話を聞いた。
金賞受賞の本郷芳哉:彫刻において重視するのは「実感」
──まずは第4回から審査に携わってきた伊藤さんにうかがいます。前回(第7回)の審査するなかで感じたことを教えてください。
伊藤 「国際彫刻ビエンナーレ台湾 麗宝大賞」は、国際的かつ規模も大きいコンペティションです。ただ、日本からの応募が前々回まではほとんどなく、非常に残念だと感じていました。日本には優秀な彫刻家がたくさんいるはずなのに国際的にはまだまだ知られておらず、このリーパオ賞を生かしてほしいと思っていました。そうしたら、前回、本郷さんと四方さんという2名の日本人作家が素晴らしい賞を受賞されました。
審査員は、イギリスやイタリア、台湾、日本からの5名で構成されています。麗宝文化芸術財団は非常に強い使命感をもっており、リーパオ賞を通じて台湾の文化的アイデンティティをつくりあげていこうという高い志があります。そのため、私たち審査員にも緊張感がありました。そのなかで、お二人の評価は非常に高く、日本人彫刻家の実力を示すことができたと感じています
──本郷さんは、一次審査に向けてどのようなプレゼンテーションをされましたか。
本郷 台湾人アーティストの知人から、リーパオ賞のことを教えてもらいました。第7回から年齢制限がなくなったということもあり、ぜひ出してみたいと考えたのですが、締め切りが迫っていました。応募作品が新作ではなくてもよいということだったので《空白−坐佇 The void−ZACHO》(2022)の資料を急遽まとめて提出しました。一次審査のための書類づくりでは、自分のこれまでの制作についての考えを改めてまとめる機会にもなりました。

──提出する作品の計画を立てるうえで、もっとも重視したことはなんでしょうか。
本郷 僕は「実感」をすごく大切にしています。素材を扱う感覚や、自分が身体的に感じる空間、そういった「実感」が、世界との関係のなかで立ち上がってくることに、彫刻の面白さを見出しています。自分という存在もまた、世界との関係のなかで成り立っているという考えがあります。今回応募した「空白」シリーズは、そもそも存在するとはどのようなことなのか、というそうした問いに対する思索から着想し、彫刻のあり方と自分たちのあり方を重ね合わせることができるのではないかと考えていきました。

この《空白-坐佇 The void-ZACHO》は、約2ミリの板で自分の身体を取り囲むようなアルミの構造物をつくり、内側から金槌で叩いて、外に広げていきます。そこには自分の身体の動きや、行為によって周囲の空間が生まれているという感覚があります。完成したイメージに沿ってかたちをつくるのではなく、痕跡が結果的にかたちとなっていくんです。その物質的な存在と行為、内側と外側、その境界との関係のなかで存在が生まれていくプロセス、そしてその過程としての時間についての思索が重なり合いながら、彫刻として立ち上がっていきます。
銅賞受賞・四方謙一:物事の連関で成立する世界を表現
──四方さんの出品作のステイトメントには「場所を読み解き、世界を知るための存在」と述べられていますが、このコンセプトがどのように生まれたのか、教えていただけますか。
四方 僕は今回、継続して制作しているシリーズの新作を出品しました。これはステンレスの板を放射状に配置したシリーズで、そのなかから正方形をベースにしたものと、円形をベースにしたものの2案を提出して、一次審査を通過した正方形の板を用いた作品を制作しています。

アメリカのオレゴン州にクレーター・レイクというカルデラの中に山頂が浮かぶ湖があり、ネットでそれを見つけたとき、あまりにも美しくて強く心を惹かれました。どうしてこのような湖になったのかという由来を調べながら、様々な出来事が関連しあった結果として、こうした情景がかたちづくられていくという、その過程に興味を持ちました。受賞作の《Dancing Rays−Sequence of Events/光之舞歩−事件軌跡》(2025)は、こうした連関の構造を表現した作品です。タイトルでも、無数の出来事の連鎖によって世界がかたちづくられており、私たちはその連鎖の一部として存在しているということをうたっています。

彫刻がもつポテンシャルとリーパオ賞
──伊藤さんは1960年代、アートや彫刻の概念が拡張されていく時期に、モーターを搭載して動きを取り入れた彫刻を発表するなど先進的な表現に挑戦していました。そして、現在も本郷さんや四方さんのような新しい表現を生み出す作家たちによって彫刻の概念は拡張を続けていると思います。こうした動きのなかで、リーパオ賞の意義はどこにあると考えていますか。
伊藤 毎回、リーパオ賞の審査で感じるのは、麗宝文化芸術財団の芸術を通した社会貢献に対する意識の高さです。台湾では、「1パーセントフォー・アート」(*1)が法制化されており、公共建築の工事費の1パーセントをアートに費やさなければいけないと法律で定められています。アートに対して積極的で能動的な社会をつくろうと国全体で真摯に取り組んでおり、麗宝グループもこのコンペティションにおいて、同時代性のある先進的な作品を高く評価しています。
コンペティションの最終審査は、麗宝グループのオフィスビルにあるギャラリーやエントランスホールで行われます。オフィスビルという環境のなかでも10点の作品がそれぞれベストな状態で見えるように展示空間が選ばれ、照明もセットされ、最高のコンディションで展示されています。そこに意気込みを感じます。
四方 そうですね。授賞式も国立音楽ホールのエントランスとホワイエを貸し切って行われるのですが、テレビ中継され、台湾の官房長官も出席していました。そこからも麗宝グループがこのコンペティションにかける思いを感じることができました。

──アートを社会にインストールするとはどういうことか、麗宝グループはとても意識的なんですね。
伊藤 麗宝グループは、住宅としての不動産からリゾートホテルやサーキットまでを手がける大企業です。ただ、ビジネスとしての企業活動だけでなく、文化や自分たちのアイデンティティを築こうとしていることがよく伝わってきます。リーパオ賞は最終審査の10点だけが入賞作品という非常に狭き門ですが、そのぶん賞金も大きく、選ばれることで将来に大きな展望が生まれます。自分の実力を試してみたいという作家には、ぜひトライしてほしいです。
本郷 僕も応募してみてよかったと思っています。現在は作家からの発信手段もいろいろあるので、そのなかで表現活動を続けていくこともできるかもしれません。しかし、先ほど「審査員にも緊張感がある」と伊藤先生がおっしゃっていたように、多くの作家が自分が信じている表現を審査員に問いかけることで、コンペティション自体も進化していくはずです。そこに挑戦することは、自分の可能性を広がるきっかけにもなると思います。

──最後に今回の受賞を機に、どのような展望を描いているの教えてください。
本郷 今回出品した作品のシリーズだけでなく、例えば変わっていく町並みや解体されていく建築物、そうしたなかで見えてくる物質の循環などに関するリサーチを含めた制作も継続的に行っています。8月に東京で行われる個展(*2)では、その方向で作品を発表する予定です。そうしたリサーチなども行いつつ、自分が世界とどのように関わっているのか、その世界のなかでどう生きているのかを実感として感じとりながら、制作と発表を続けていきたいです。
四方 僕はスケールの大きな作品をつくりたいと思っています。例えば、クリスト&ジャンヌ=クロードのような風景に介入する大規模な作品や、ロバート・インディアナの《LOVE》(*3)のような、世界中に広がって多くの人をイメージでつなぐ作品を目指しています。今年は、神戸六甲ミーツ・アート(*4)に出展し、六甲山の展望台から風景を取り込む大型作品を展示する予定です。この作品を通じて、関西の風景と観覧者との関係を拡張していきたいです。
*1──公共工事や公共建築において、その費用の1パーセントをそのプロジェクトに付随するアートのために支出することを法制化しようという思想。文化芸術振興策として欧州で導入され、米国、カナダなどが続き、アジアでは韓国と台湾で法制化されている。
*2──本郷芳哉 個展(2026年8月22日~30日、noie extent)詳細は、https://noie.cc/。
*3──ロバート・インディアナが、ニューヨーク近代美術館のクリスマスカードのために1965年に描いた「LOVE」の文字で、のちに立体として世界各地で発表した作品。日本では東京の新宿アイランドで見ることができる。
*4──神戸六甲ミーツ・アート2026 beyond(2026年8月29日~11月29日)は、神戸・六甲山上で毎年開催される現代美術の芸術祭。2010年からこれまでに延べ650組程のアーティストが参加し、今年17回目を迎える。



























