ホワイトキューブを超えて、場で生まれるもの。「CURATION⇄FAIR Tokyo」に集まったキュレーター、ギャラリスト座談会【2/4ページ】

第一部の展覧会で来場者に伝えたいこと

──遠藤さんは昨年に引き続き、「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る(The Beautiful, the Ambiguous, and Itself)」のタイトルで今年も展覧会をキュレーションされます。1968年に川端康成がノーベル文学賞を受賞した際の講演タイトル「美しい日本の私」と、その26年後の大江健三郎による講演「あいまいな日本の私」からコンセプトを着想されたそうですが、展示構成はどのように考えたのでしょうか。

遠藤水城(以下、遠藤) kudan houseを下見させていただいた際に、一見すると近代的な洋風建築でありながら、日本の伝統的な要素も複雑に組み込まれていて、そこに日本らしさのようなものを感じました。すでに背景としてそれだけどっしりした建築があるので、白い壁を建てて展覧会を行うのではなく、kudan houseの空間に展示を適合させることを目指しました。そこで、極端にいえば伝統的で日本的な美のようなものを強調する川端と、近現代の日本の破れのようなところに目を向けた大江との、両方の視点がぶつかっていくようなイメージから始めました。

遠藤水城

 そう考えたときに、古美術、近代美術、現代美術といったカテゴリーを設けてしまうと、情報が先行してお勉強のようになってしまうかもしれない。あるいは、自分の知っているもの、好きなものだけを見て買いたいものを探すような状態になってしまう。そこを広げたいと考えたので、背景にある情報から作品を切り離し、作品としての「モノ」がそのまま立ち現れてくるような展示を考えました。さらにはモノたちが対話を通して連結されていくような現象を設定しています。作品が星のように置かれていて、それを見たお客さんが個々に星座をつくっていくような鑑賞を可能とするような展示構成を考えたのです。

──アートフェアに参加するギャラリーがラインナップされていて、ギャラリーの所属作家、取扱作品からピックアップし、キュレーションを行ったのでしょうか。

遠藤 基本的にはそうですね。昨年は、地下のみ、橋本聡さんというアートフェアに参加するギャラリーに所属していない作家さんに入っていただきました。参加ギャラリー・美術商から作品を選ぶことを一手に引き受けたわけですが、古美術から近代、現代までのすべての専門家ではないですし、当然、よく知らない時代や領域もたくさんあります。でも、そもそもキュレーターがすべてを知っているというのも無理があると思っていて、むしろ何を知らないか、を積極的に表明する方法があるのではないかと感じています。展覧会全体をコントロールするのではなくて、コントロールの効かなさをポジティヴに見せることが可能だと思うんです。その方が見る側にとっても新たな思考が発生しやすいはずです。

「CURATION⇄FAIR Tokyo 2024」展覧会の展示風景より、橋本聡の作品群 撮影=苅部太郎*

ローゼン美沙子(以下、美沙子) 昨年も参加させていただいたのですが、こちらからは何も言わず、遠藤さんが展示したい作家の名前を伺い、「こういう作品がありますよ」とお出ししたなかから自由に選んでいただきました。さすがプロだと思いましたね(笑)。杉原玲那という、うちで一番若くて売り出し中の作家のペインティングや、エリカ・ヴェルズッティという作家が女性の胸をモチーフにするちょっと攻めたブロンズ作品のように、うちで人気作家の作品を選んでいただきましたから。

ローゼン美沙子
「CURATION⇄FAIR Tokyo 2024」展覧会の展示風景より、MISAKO & ROSENが出品した杉浦玲那《Years》 撮影=苅部太郎*

山本 すごく良い展示だったと思います。私の父(*)の世代がお客さんに美術を売るときは、ほぼこういう空間だったんです。床の間に何が掛けられるか、和室の畳の上に何が置かれるか、そういうものを生活空間で見せていた。おそらく、中長小西の小西さんも、そういう体験から美術商としての経験を積んでこられたでしょう。前回、若い世代が大勢来てくださったのは、新しい空間として日本の近代建築をとらえ、そこでアートがどのように置かれるかに興味を持ってくださったからだと思います。遠藤さんが非常にうまくまとめ上げてくれたおかげで、僕としては若い頃の体験が蘇ったし、若い世代には新しい設えとして体験できた。いまという時代にも合うタイムリーな展示になったんじゃないかという気がします。

*──東京画廊を1950年に開廊した山本孝。当初は日本の近代美術を展示していたが、批評家の瀧口修造を介して斎藤義重と出会ったことをきっかけに、現代美術の紹介を中心に行うようになる。 

編集部

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