「CURATION⇄FAIR」の展覧会「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る」(kudan house)が開幕

展覧会とアートフェアで構成される新たなアートイベント「CURATION⇄FAIR」。その展覧会パートが、東京・九段下の登録有形文化財「kudan house」で幕を開けた。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、青木野枝《霧と山 2020-11》(2020)

 普段は一般公開されていない東京・九段下の登録有形文化財「kudan house」。ここを舞台に、展覧会とアートフェアの2部で構成される新しいアートイベント「CURATION⇄FAIR」が開催。展覧会パートとなる「美しさ、あいまいさ、時と場合に依る(The beautiful, the ambiguous, and itself)」が幕を開けた。会期は3月3日まで(2月21日は招待者のみ)。

>>インタビュー:「CURATION⇄FAIR」が目指す既存の枠組みからの脱却。キーパーソン3人に聞く

kudan house
kudan house

 インディペンデント・キュレーターとして活躍する遠藤水城がキュレーションするこの展覧会では、川端康成と大江健三郎の文化論を起点に、古美術から現代美術まで、時代やジャンルを超えた作品が集結。人間中心的な視点ではなく、「もの」の質と美に焦点を当てる。

 特徴的な展覧会のタイトルは、川端康成がノーベル文学賞受賞に際し、1968年に行った講演のタイトル「美しい日本の私」と、その26年後に日本人で2人目の同賞受賞を果たした大江健三郎の「あいまいな日本の私」から着想を得たもの。李朝白磁壷や信楽壷に加え、青木野枝、合田佐和子、橋本聡、伊藤慶二、川端実、川端康成、香月泰男、熊谷守一、小川待子、大西伸明、カズ・オオシロ、パブロ・ピカソ、シャプール・プーヤン、山口長男など、時間軸やジャンルを超えた作品が、並列化して元邸宅の空間に設置された。

 1階〜3階の居住空間では、李朝の白磁壷や川端康成の書、主に鉄を用いた立体作品を多くの芸術祭や個展で発表してきた青木野枝の作品などが紹介される。

展示風景より
展示風景より、大西伸朗《Glass》(2018)
展示風景より
展示風景より、合田佐和子《クラーク・ゲーブル》(1973)
展示風景より、渡辺始興《桃に三牛図》(江戸初期)
展示風景より、手前は青木野枝《立山 2020-14》(2020)。奥は野口里佳の作品

 また注目したいのは、ボイラー室などがある地階だ。ここでは、アーティストの橋本聡が手がける新作群と、シベリア抑留を生き抜いた香月泰男の絵画がともに展示。橋本は30点以上の作品をフロア内の各所に設置しており、いずれも橋本が関心を寄せる短いテキストがベースとなっている。上階とはまったく異なる雰囲気を持つこの場所にあわせ、展示自体もコントラストが効いたものとなっている。

地下へと続く階段にも橋本による作品が展示
地下の展示風景より
地下の展示風景より
地下の展示風景より
地下の展示風景より。右の壁にかかるのが香月泰男の作品群

 キュレーターの遠藤は、「ここは建物時代が芸術作品。調度品も素晴らしい」としつつ、「テーマを決めて素晴らしい作品だけを見てくださいというのは簡単だが、それは美術ではなくなってしまう。古い建物の中にあることや戦争が終わらないことなど、周囲の環境なども含めて見てもらいたい」と語っている。

 なお、今回は会場に「動作ディレクション」を入れることで、館内に流れを生み出すことを目指すという。加えて、会場の随所にはアーティスト・五月女哲平による赤いランプが設置され、空間にリズムを生み出している点にも注目だ。

 この展覧会の終了後は、同じ会場でアートフェアパートである「Art Kudan」が3月9日~3月11日(3月8日は招待日)の会期で開催される。この展覧会を見た後に、実際に作品を買うという体験もしてみてはいかがだろうか(展示内容は出品作品は異なる)。

編集部

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