ホワイトキューブを超えて、場で生まれるもの。「CURATION⇄FAIR Tokyo」に集まったキュレーター、ギャラリスト座談会【3/4ページ】

今年は3名のキュレーターが展覧会を企画

──昨年は全体のキュレーションを遠藤さんが行いましたが、今年は兼平彦太郎さんがキュレーションする地下1階の「Pocket full of sparks それは小さいのに、とても大きい。」と、岩田智哉さんが旧ガレージと庭に「さかむきの砂」と題する展示を展開します。

kudan houseの外観

遠藤 僕がひとりでキュレーションするのではなく、ここの空間特性とアート作品との化学反応に加えて、異なるキュレーターが個別の展示を行う化学反応も生まれると考えました。3つが関係しなくても、場の特性がまとめ上げてくれるだろうという感覚があったので、使用する空間だけを指定し、おふたりには自分の展覧会をやり切ってくださいとお願いしました。 

kudan houseで行われる「CURATION⇄FAIR」は、ホワイトキューブで行われる展覧会や、いわゆるコンベンションセンターのような場所で行われるアートフェアとは異なり、作品や作家と建物や空間そのものとのコラボレーションの要素も特徴のひとつだと思います。 今回お話をいただいて、漠然とした展示のイメージは描いてアーティストたちに声をかけましたが、実際にアーティストたちに下見をしてもらったら、事前にフロアプランを決めずに、その場でアーティストたちが作品を持ち寄り、あれこれと相談をしながらインストールをするというジャムセッションというか、インプロでの設営にしようか…という話になり、地下空間のパートでは、よりそのコラボレーション的な要素の強い展示になるのではないか…と楽しみにしています。もちろん個々の作品はそれぞれで成立していますが、すべての作品が並ぶことでひとつのインスタレーションのようになるのではないかな…と。なので、もしかしたら出品アーティストのリストにこの建物、または建築家の名前を入れてもいいのかも…と思ったりもしました。

──兼平彦太郎

岩田智哉(以下、岩田) 最初に遠藤さんからお声がけいただいたのですが、昨年の展示にもお邪魔していましたし、kudan houseにも何度か来たことがあったので、ぜひこの空間でキュレーションをしてみたいと思い、お誘いをお受けしました。現地調査をして感じたのは、和洋折衷やスパニッシュ様式というのが建築として特徴的なのですが、それに加え、庭とガレージと部屋が連続するなかに半分屋外のような空間がいくつか存在するなど、内と外の感覚がぶれてくるような建物だと感じました。和の建築空間で自分の身体が空間の一部として溶け込むような感覚でもなければ、洋の建築空間で自分の身体が個として峻立する感覚とも違う。それを起点に、ある種の空間的な遠さと近さや、時間的な長さと短さが紐づいて共存するような展示ができないかと考え始めました。

岩田智哉

──旧ガレージの室内には、柏木崇吾さんによる、外から隔絶された空間のなかで自身が体験した風景をある瞬間として再構成した作品を、庭には、木藤遼太さんによる自身とkudan houseが経験してきた時間を重ね合わせたサウンドインスタレーションを展開することになりました。

岩田 自分と近い世代で、抽象的な議論ではなく具体的な対象について自らの身体を物差しに思考する作家が多いように感じます。そのような同世代的な表現を紹介したいと考えました。また、今回はアートフェアへとつながる展覧会なので、購入できるのかの想像が難しいようなアーティストを選ぶことで、アートを購入することについてメタ的に言及したいという思いもありました。

kudan houseの庭

──今回はkudan houseに加え、サテライト展示として、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町, ラグジュアリーコレクションホテルと、赤坂プリンス クラシックハウスも会場になります。 

遠藤 僕が担当するのはkudan houseと赤坂プリンス クラシックハウスですが、蓮沼執太さんに音を担当していただくことで、両方の会場内で音が響いている状態をつくります。展示構成には五月女哲平さんに加わっていただきました。とくにクラシックハウスの方では、蓮沼さんの音と五月女さんの光の表現とをあわせて鑑賞していただくシンプルな構成になっています。赤坂プリンス クラシックハウスという建物空間そのものを味わっていただければと考えています。

──ただ空間に作品を展示するだけではなく、音と光の要素を加えた意図を聞かせていただけますか。

遠藤 ホワイトキューブではない展示空間で、建築に特徴がある場合、「すごい建築だ」、「面白い環境だ」となってしまいがちです。同時にそこにある作品が環境から浮いて見えるという一点だけで作品になり得ているというのも少し疑問がありました。土台としての、あるいは支持体としての建築とその内容物としての作品のあいだにレイヤーをつくる必要があると考えました。そうすることで、建築も作品もあくまで多層的な現実認知の中のひとつのレイヤーに過ぎないという相対化を促したかった。そういう観点から、おふたりに加わっていただきました。 

kudan houseの内観

 自分の感覚が解放され、普段見えないものが見えてきたり、受け入れなかったものを受けられるようになったり、そうした働きがコレクターにも、誰にでも作用する展示にしたいと考えています。普段買わないような作品でもを買う機会になれば、その方のコレクションにも新たな展開が生まれます。

藤城里香(以下、藤城) 私は今回が初参加ですが、昨年はキュレーションの方の展覧会だけ見ていて、地下の橋本聡さんの展示がとても印象に残りました。展示構成も暗い空間で迷路みたいになっていて、どこの場所を、時間を歩いているのかわからなくなるような感覚がありました。空間と作家の世界観が結びついた印象でしたね。

編集部

Exhibition Ranking