10年をかけて小山登美夫から次世代へ
──2026年1月に株式の売買契約が完了したとのことですが、今後のギャラリーの経営体制はどうなるのでしょうか?
倉富 譲渡にあたっては、私が100パーセントを保有する日本法人を通して株式を購入させていただきました。現時点では、私は小山登美夫ギャラリーの取締役などの役職には入っていません。いまの小山登美夫ギャラリーは非常に素晴らしい状態にありますし、なにより「小山さんがいてこそのギャラリー」です。ですから、何かを急に変えたいという思いはまったくありません。まずはこれから10年間、小山さんには引き続き代表取締役社長としてギャラリーの運営を引っ張っていただきます。そのあいだに、次の10年、20年、30年先へギャラリーをどうつなげていくのかを、チーム全員でじっくり決めていきたいと考えています。
小山 今年の1月7日に銀行で手続きを終えて、その日の夕方にスタッフ全員を集めてこの発表をしました。それまでは一部のコアメンバーにしか伝えていなかったのでドキドキしましたけど、みんなすんなりと受け入れてくれました。スタッフも以前から、倉富さんとアートフェアの現場などでコレクターとして顔を合わせていたので、「あの倉富さんが買ってくれたんだ」と、すごく好意的に受け止めてくれたと思います。翌日にはアーティストのみなさんにも僕なりの文章で報告しましたが、みなさん本当に前向きで、温かいお返事を返してくれました。

──「10年」という期間を設けたのは、ギャラリーの運営を継続しながら、徐々に新たな体制に移行していくためでしょうか。
小山 そうですね。例えば血のつながった自分の子供に継がせるケースであっても、子供は別人格ですから、自分のときとは別のギャラリーになっていくんだと思います。それならば、この先10年をかけて、優秀なスタッフたちや新しく加わるかもしれない人たちに、ギャラリー運営のノウハウを少しずつバトンタッチしていくこともできるだろうと考えています。なにより、僕が株を持たなくなったことで、ギャラリーの市場価値や、今後のためのネガティブな処理に悩まされる必要が一切なくなりました。これからは「アーティストをどう成長させるか」という、本来のギャラリー業務に100パーセント邁進できる。これが本当に嬉しいし、確実にいい方向に働くと確信しています。
ビジネスの知見とアートへの情熱の融合
──倉富さんはスタートアップ企業を立ち上げて売却した経験もあり、また投資分野の最前線でも活動されています。こういったノウハウは今後、小山登美夫ギャラリーの運営にどのように生かされていくのでしょうか。
小山 ギャラリーって、ものすごく原始的なビジネスですよね。いっぽうで、倉富さんはスタートアップを立ち上げてバイアウトするような、現代のビジネスの最前線を生きてきた人。そしていまは時代が大きく変わって、AIや最先端のテクノロジーがどんどん出てきている。僕はもうAIを使うつもりはないけれど、スタッフには「AIを駆使しよう」と言っています。現代的なビジネスの知識やテクノロジーを、僕らの業界にどう活用していけるかは今後ますます重要になります。僕自身も彼から勉強したいと思っています。
倉富 現在の小山ギャラリーは売上や利益の面で良い状態にあります。これは長期にわたって持続できる基盤がすでにできあがっているということですから、この強みをしっかりと継続させることが大前提です。そのうえで、ギャラリーに関わり、アーティストの人生、そしてコレクターの人生に直接向き合いたいと考えています。やりたいことのアイデアはたくさんありますし、今後必要があればアート業界やアーティスト、ギャラリーの未来のために投資もしていきたい。たんに「来期の数値をどうする」といった短期的な話ではなく、長期的なスパンでこのインフラを強化していきたいと思っています。



















